ジェンダー平等とは 日本社会に問う映画

伊藤恵里奈
[PR]

 【東京】3月8日は国連が定める国際女性デー。コロナ禍の影響で女性をとりまく環境が厳しさを増す中で、この日を迎えます。日本とコンゴ民主共和国で撮影された2本の映画を通じて、女性の置かれている状況や、ジェンダー平等を考えます。(伊藤恵里奈)

     ◇

 アフリカ中部のコンゴ民主共和国で20年以上、性暴力の被害者を治療してきた婦人科医デニ・ムクウェゲさん(66)を追ったドキュメンタリー「ムクウェゲ『女性にとって世界最悪の場所』で闘う医師」が今月、映画祭などで上映される。TBSプロデューサーの立山芽以子さん(47)が監督を務めた。

 コンゴでは、1990年代後半から豊かな鉱物資源をめぐって激しい内戦が続き、組織的な性暴力が横行している。ムクウェゲさんは99年、東部に病院を設立。生後数カ月の赤ん坊から80代まで5万人以上の被害女性を治療したという。

 コンゴはスマートフォンやパソコンの部品に欠かせないレアメタルの一大産地だ。ムクウェゲさんは映画の中で、「武装勢力は住民に恐怖心を植え付けて支配し、鉱山を手に入れるためにレイプしている」と語る。そして、レアメタルを大量に消費する日本の人々に、コンゴの実情に関心を持つよう訴える。

 立山さんはムクウェゲさんが来日した2016年に取材し、ノーベル平和賞を受賞した18年にコンゴを訪ねた。立山さんはムクウェゲさんを「温かくて優しい人」という。女性たちの話に熱心に耳を傾けるムクウェゲさんを撮影した。

 映画に登場する女性たちの被害は壮絶だ。「両親が目の前で殺され、武装勢力にジャングルの中を連れ回された。性暴力の末に妊娠し、臨月のおなかを刺されて、子どもが殺された」

 女性たちは手厚い治療と精神的支援を受け、経済的自立のために勉強に励む。「人の役に立ちたい」と看護師を目指す人も。立山さんは「自分が同じ立場だったら、人生に絶望するだろう。でも、彼女たちは他人を思いやっていた。私の方が教わることが多かった」と振り返る。

 加害者にも話を聴いた。200人レイプしたという男性は、うつろな表情で「命令だから仕方なかった」と語る。立山さんは「彼らも被害者。学校に通って家族と暮らす生活をしたかっただろうに、武装勢力に拉致されて戦闘に巻き込まれた」と考える。

 立山さんは「アフリカは世界の縮図」という。気候変動の影響や政治腐敗、人権侵害などの課題が極端な形で現れるからだ。「映画をみて、身近な性暴力の被害や、私たちの日常に欠かせない資源の確保が途上国の性暴力の犠牲の上で成り立ってきたことを考えていただければ」

 渋谷・ユーロライブで18日に始まる「TBSドキュメンタリー映画祭」の20日午後6時の回で上映され、オンラインでも有料配信される。映画祭のホームページに案内がある。

     ◇

 震災後の福島県双葉町の住民を追ったドキュメンタリー「フタバから遠く離れて」などで知られる舩橋淳監督(46)は、今年公開予定の劇映画「ある職場」で、セクハラ被害を描いた。実際のセクハラ事件に着想を得て、その後日談をフィクションにした。性被害を軽視する日本社会の問題を浮かび上がらせる。

 主人公は大手企業に勤める20代の早紀。男性上司からセクハラをされた被害を会社に訴えるが、不誠実な対応をされる。誰かにネット上で実名や写真をさらされ、中傷の的に。同僚らが早紀を励ますために集まった場で議論が起きて……。

 舩橋さんは「事前にセリフを決めず、役者と話し合い、役になりきって考えてもらった」と語る。

 登場人物たちは日本社会を映す鏡のようだ。「ちょっと軽く触っただけなのに、大げさだ」と被害を軽視する男性。ベテランの女性社員は「私はセクハラをうまくかわして出世した」。「はっきり拒絶しなかった」と早紀を非難する同僚も。早紀はセクハラ被害とネットでの中傷、周囲の反応に疲れ果てていく。

 2019年度、全国の労働局が受けたセクハラ被害の相談は7323件。男女雇用機会均等法に関する相談の中で最も多い。

 舩橋さんは大学卒業後、米国に渡った。米国では、セクハラ被害者を支える制度や企業に対策を義務づける法律が広がっているという。「だが日本では法整備も不十分で、被害者が泣き寝入りするしかない。被害を生んだ職場の環境に目を向けず、個人間の争いに落とし込まれがちだ」

 舩橋さんは米国時代、夫婦別姓だった。2007年に帰国して事実婚を通そうとしたが、家を買う際、必要に迫られ泣く泣く法律婚をしたという。「私が妻の姓に変えて、身をもって大変さを知った」

 6歳になる娘がいる。「性差別がはびこる不均衡な社会を次世代に残したくない」という思いで、声を上げ続けていく。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

※無料期間中に解約した場合、料金はかかりません

Think Gender

Think Gender

男女格差が主要先進国で最下位の日本。この社会で生きにくさを感じているのは、女性だけではありません。性別に関係なく平等に機会があり、だれもが「ありのままの自分」で生きられる社会をめざして。ジェンダー〈社会的・文化的に作られた性差〉について、一緒に考えませんか。[もっと見る]