「コロナで入国?」 国際ロマンス詐欺、見抜いた眼力

米田千佐子
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 奈良県天理市の女性がSNSで知り合った相手は「英国人の男性医師」だった。「日本で医者として活動する」。男性はそう伝え、86万円を指定の銀行口座に振り込むよう求めてきた。女性がその手続きをしようとしたとき、銀行のパート職員はピンときた。「国際ロマンス詐欺じゃない?」

 天理署は8日、南都銀行天理支店のパート従業員高西多賀子さん(50)に感謝状を贈った。外国人との恋愛と錯覚させて金をだまし取る「国際ロマンス詐欺」を未然に防いだ点を評価した。

 高西さんと署によると、5月7日午前、天理市の60代女性が同行天理支店にやって来た。「自分名義と家族名義の口座から金を引き出し、手持ちの現金と合わせて86万円を振り込みたい」

 窓口で対応したのが高西さんだった。事情を聴くと「英国に住む知人が英国から日本に来るためのお金だ」とのことだった。

 高西さんは女性の話を聞きながら、不信感を募らせた。「英国人なのに振込先は日本のネット銀行? 新型コロナウイルスの影響で入国制限がかかっているのでは?」

 高西さんの頭をかすめたのは「国際ロマンス詐欺」。数年前、テレビ番組で知った手口だ。高西さんは上司に相談し、上司が署に連絡した。

 署員が女性から詳しく話を聞いた。男性とSNSで知り合ったのは4月末。毎日のようにメッセージを送り合っていたそうだ。

 男性はシリアで医師をしている英国人との触れ込みだった。「私はいつもあなたと話せて幸せです」「お金はある。お金はあなたに使ってほしい」。日本語でそんな内容を伝えてきた。

 金を求められたのは5月3日。「国連で2年間働いた退職金が180万ドルある。大金を(シリアの)キャンプに残しておくのは怖い。あなたに送るので預かってほしい」とメッセージが届いた。

 女性は住所、氏名、電話番号やメールアドレスを相手に伝えた。男性は退職金を女性に送るといい、その手数料に86万円が必要だとして、ネット銀行の口座を知らせた。

 署員の説得で、女性は金を振り込むのを思いとどまった。「難しいはずの日本語を懸命に話してくれた。育った環境が似ていたこともあって、彼にひかれていった」。女性はそう話していたという。

 高西さんは「本当にほっとした。身近にこんなことが起こるなんて思っていなかった。一段と気をつけたい」。感謝状を贈った小畑浩康署長は「窓口の人はお客さんからせかされるし、声かけを徹底するのは大変。最後のとりでで防いでいただいてありがたい」と話した。

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米田千佐子
東京校閲センター
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