デマだと知っても買いだめ、なぜ? まるで「裸の王様」

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辻岡大助
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 スーパーやドラッグストアでトイレットペーパー(トイレ紙)が売り切れた騒動は、新型コロナウイルスの不安によるうわさがきっかけとされる。騒動の直後に供給力も在庫も十分と安心情報が流れ、うわさはデマだとされたのに、買いだめが続いた。それは過去にもあった。そんな人々の心理状態は、あの有名な童話とそっくりだという。

 京都市山科区に住む清水暉人(てるひと)さん(77)に「悪夢」がよみがえったのは、今年2月末ごろのことだ。空になったスーパーのトイレ紙の棚やお年寄りらの長い列がテレビに映っていた。新型コロナウイルスの感染拡大で「マスクと同じ素材で作られるトイレットペーパーも品不足になる」とのうわさがきっかけとされる。「この社会には学習効果があるんやろうか」

 1973年に大阪・千里ニュータウンのスーパー「大丸ピーコック千里中央店」(当時)で起きたトイレ紙騒動。店の家庭用品係長だった清水さんが10月31日に出勤すると、約300人の行列ができていた。聞けば、トイレ紙が目当てだという。「店内を走り回られるとけが人が出る」。急きょ、1パック4個入りのトイレ紙計300パックを店の奥から入り口に移した。

 すでに周辺の店や問屋ではトイレ紙が品薄になり、清水さんの店は以前から計画していた特売の初日だった。特売品が売り切れた後に通常価格のトイレ紙を出すと、「便乗値上げ」と一部で報じられ、首都圏に飛び火した騒動の「火元」と汚名も着せられた。清水さんは公正取引委員会に呼ばれ、特売の経緯を聴かれたという。

 第4次中東戦争による石油危機で世界経済が混乱した年。「石油危機でトイレットペーパーがなくなる」とのデマが品薄に拍車をかけていたと、清水さんは後で知った。水洗式トイレが完備されたニュータウンの各戸では溶けやすいトイレ紙を使うしかなく、客の切迫感をさらに強めたという。

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 今年のトイレ紙騒動も業界や…

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