第1回「移民ストップのクラブへようこそ!」 難民の町長誕生と裏腹な現実
#1 【統合】は失敗したのか
「こんな本を読むな」
昨年4月、ドイツの電車内で中年の男性に突然怒鳴られた。記者が手にする本のカバーにはメルケル前首相の顔写真。その場を離れた男性だが、再び声をかけてきた。「こいつがこの国をひどい状態にした」。怖くなって、カバーを外した。
メルケル氏は2015年夏、シリア内戦の激化などを受けて中東やアフリカから逃れた難民らの受け入れを表明。「ドイツは強い国だ。我々ならできる」と訴え、その人道的な判断は世界から称賛を浴びた。
あれから10年。その評価は今、揺れ動いている。何があったのか。
【連載】移民・難民と世界 ー危機とジレンマの欧州ー
寛容か排斥か――。10年前の「難民危機」は、人権を重んじる欧州の価値観と、あるべき姿を激しく揺さぶった。統合、右翼、理念、トラウマ、ジレンマ、そして幻想。キーワードをもとに、欧州のいまを追う。
ドイツ南部、人口約2600人のオステルスハイム。23年4月の町長選で当選したのは、シリア難民の男性だった。
リアン・アルシェブルさん(31)は10年前、強権統治が続くシリアでの兵役を逃れるために地中海をゴムボートで渡り、バルカン半島を経由してドイツにたどり着いた。市長になって2年、幼稚園のスタッフ数を増やして保育時間を延ばすなどの成果を上げる。「環境に優しい街づくりを目指したい」と記者に語った。
統合の成功例――。アルシェブルさんを独メディアはそう紹介する。全く話せなかったドイツ語を難民向けの語学学校で習得し、市役所の家庭支援の部署などで働いた。イスラム教系だが規律に寛容な宗派のため、卓球クラブの練習後に仲間のビールに付き合い、教会にも顔を出した。22年にドイツ国籍を取得。地元の人々の支援を受け、興味のあった政治の世界に飛び込んだ。
ドイツが直面した「あいまいな言葉」
ドイツ社会に溶け込む努力を…
- 【視点】
移民・難民の社会統合の度合いを国際的に比較する指標として、「移民統合政策指数」(https://www.mipex.eu/)があります。政治参加や教育、就労のしやすさなど8分野について先進国や新興国など56カ国を専門家が100点満点で採点し
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- #移民・難民と世界
- 【視点】
この記事で気になるのが(そして私がことある度にメディア出演時に強調しているのが)表面的にはわかっているようで実はあいまいにされてしまいがちな、移民と難民の区別についてだ。ありていに言えば基本的に「移民」はその社会の経済産業システムに組み込ま
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