八千草薫さん死去「岸辺のアルバム」「雪国」代表作多数

編集委員・石飛徳樹

 可憐な娘役から上品な母親役、そして優しい祖母役まで、映画やテレビ、舞台で息長く活躍した俳優の八千草薫(やちぐさ・かおる、本名谷口瞳〈たにぐち・ひとみ〉)さんが24日、膵臓(すいぞう)がんのため死去した。葬儀は近親者で済ませた。88歳だった。

 1947年に宝塚歌劇団に入り、娘役のスターとなる。51年映画デビュー。54~56年、稲垣浩監督の「宮本武蔵」3部作で三船敏郎の武蔵をひたむきに愛するお通に扮して注目される。55年にはイタリアで撮影された日伊合作映画「蝶々夫人」で蝶々役に選ばれた。可愛く屈託のない女性を数多く演じて人気を博した。

 57年、川端康成の小説を豊田四郎監督が映画化した「雪国」で、岸惠子の義妹の複雑な心境を表現し、演技力も評価された。72年、「男はつらいよ 寅次郎夢枕」でマドンナを務めた。74年には寺山修司監督のATG映画「田園に死す」に出演。作品の幅を広げた。

 77年、山田太一脚本の連続ドラマ「岸辺のアルバム」で、平凡な家庭の主婦が、ふとしたきっかけで知り合った男性との不倫愛に走る姿を好演。清らかなイメージを覆して茶の間に衝撃を与え、テレビ大賞主演女優賞を得た。「細雪」「黄昏」など舞台でも活躍した。

 03年、かつて出演したテレビドラマを森田芳光監督が映画化した「阿修羅のごとく」で日刊スポーツ映画大賞助演女優賞など多くの賞を受けた。09年には西川美和監督の「ディア・ドクター」などで、報知映画賞の助演女優賞を獲得した。

 17年には、往年の名優が大挙出演して話題を集めた倉本聰脚本の昼ドラマ「やすらぎの郷(さと)」に、「姫」と呼ばれる元女優を演じた。この続編に当たる「やすらぎの刻(とき)~道」(今年4月放送開始)にもヒロインとして出演予定だったが、がんの治療のために降板していた。

 86年に菊田一夫賞、03年に田中絹代賞、09年に山路ふみ子映画功労賞、16年には日本アカデミー賞会長功労賞を受けている。また97年に紫綬褒章、03年に旭日小綬章を受章。自然環境保全審議会委員を務めるなど、自然保護活動にも取り組んだ。夫は映画監督の故谷口千吉さん。(編集委員・石飛徳樹)

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