技能実習生、失踪したら賠償金 日本の監理団体が裏契約

板橋洋佳

 外国人の技能実習制度をめぐり、受け入れを担う日本側の監理団体がベトナムの送り出し機関との間で、実習生が失踪したら賠償金を支払わせるなどの裏契約を交わしていたことが法務省関係者への取材でわかった。出入国在留管理庁と厚生労働省は、不適切な報酬の受け取りを禁じる技能実習適正化法に違反したとして、千葉、埼玉両県の二つの監理団体の運営許可を近く取り消す。

 入管庁は、賠償金などの原資は実習生が応募する際に送り出し機関に支払う費用に上乗せされる仕組みだったとみている。監理団体は9月末時点で全国に2700ある。今回の不正は実習生の入国前に発覚したが、同庁はこうした不正が横行している可能性があるとみて調査する。

 関係者によると、千葉県の監理団体は昨年7月、ベトナムの送り出し機関と契約を締結。同時に「覚書」とした裏契約を交わし、実習生が1年目に失踪したら30万円、2年目以降は20万円の賠償金を受け取れるとした。正規の契約では、実習生1人あたり1万5千円を送り出し機関に支払うことになっていた講習委託の手数料も、無料とする取り決めもしていた。

 埼玉県の監理団体も昨年5月、正規の契約と同時に交わした「覚書」で、送り出し機関に払う事前講習の委託料を後から全額キックバック(還流)させたり、本来支払う管理費を値引きさせたりしていた。

 裏契約は、日本とベトナム両政府の情報交換で発覚。ベトナム政府も二つの送り出し機関の認定を取り消す予定だ。

 日本側との交渉窓口となる送り出し機関は、実習生が支払う応募手数料が収入源。送り込んだ人数が多ければ収入が増える。日本側への賠償金やキックバックは「契約獲得を狙ったアピール」(同省幹部)とみられるが、実習生の負担を増やすことになりかねない。

 多額の応募手数料を支払うために借金する実習生もおり、入管庁は、借金返済のために高い賃金を求めて実習先からいなくなることが、急増する実習生失踪の要因の一つとみている。

 同庁によると、2018年に失踪した実習生は9052人で、12年と比べ約4・5倍増えた。国別ではベトナム人が全体の半数以上を占めて最も多く、中国、カンボジアと続く。(板橋洋佳)

外国人技能実習制度

 日本で学んだ技術や知識を母国へ持ち帰ってもらうことを目的に、1993年に始まった。漁業や農業、食品製造など80職種が対象。日本では非営利の監理団体が実習先の紹介や実習状況の監督・支援を行うほか、企業が単独で受け入れるケースもある。昨年末時点で約33万人の実習生がおり、低賃金や劣悪な労働環境が問題視されることも多い。

この記事を書いた人
板橋洋佳
東京社会部次長
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「アンフェアを明らかにする」が記者テーマ