政府機密に迫る豪メディア強制捜査 家宅捜索・指紋採取

有料記事報道の自由はいま

シドニー=小暮哲夫
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 オーストラリアで、政府の機密情報をもとに伝えた報道をめぐる連邦警察の捜査が、波紋を広げている。6月に公共放送ABCなどを捜索して衝撃を与え、7月には記者に指紋の提出を求めるなど、捜査の実態が次々明るみに出た。豪主要メディアは政府に、「報道の自由」を守るための法改正を求めている。

 連邦警察が捜査しているのは、ABCによる2017年7月の報道。独自入手した政府の機密文書をもとに、09~13年にアフガニスタンに派遣された豪特殊部隊が非武装の男性や子どもを殺害する事件が少なくとも10件あったと報じた。これを受けて、警察は6月5日、ABCのシドニー本部を家宅捜索。「機密情報の公表を禁じる刑法の規定に基づいた」と説明し、担当記者らが刑事訴追される可能性を否定しなかった。

 そんななか、ABCは7月15日、警察が今年4月、担当記者と番組のプロデューサーに、指紋と掌紋のコピーの提出を求める電子メールを送っていたと報道。「住宅に不法侵入した容疑者と同じような扱いを受けた。豪州で記者が指紋提出を求められるのは初めてとみられる」と批判した。

 さらに、この記者についてシドニーモーニングヘラルド紙が、警察が今年初め、豪航空最大手のカンタス航空に、記者が利用した16年の6月と9月のフライトの記録の提出を求めていたと報じた。

 同紙はまた、警察が17年7月からの1年間に、通信会社が保管するジャーナリストらの電話やインターネットの記録に、58回にわたってアクセスしていたと伝えた。ただ、今回の記者に関する情報かは不明だ。警察が依拠したのは通信傍受法で、ジャーナリストの通話記録や電子メールの相手先や通信時刻などがわかるデータを、捜査機関は利用できると定めている。

 警察はABCへの捜索の前日の今年6月4日には、別件の捜査で、大手新聞社ニューズコープの記者のキャンベラの自宅も捜索した。この記者は昨年4月、政府が情報機関による市民への監視を強めることを検討していると機密情報をもとに報じていた。

 豪州は、米NGOの「フリーダムハウス」が各国の社会の自由度を数値化した2019年版の報告書で、100点満点中98点と、209カ国・地域中6位タイだった。報道の自由を含む市民の「表現と信教の自由」の項目では満点の評価を受けた。国際NGO「国境なき記者団」(本部・パリ)が4月に発表した報道の自由度ランキングでも180カ国・地域中21位。67位の日本を大きく上回る。

 そんな自由な社会だけに、7月23日に発表された民間の世論調査では、ABCなどへの警察の家宅捜索について、40%が「とても心配」、34%が「少し心配」と答えた。

 豪州では近年、国内でのテロ…

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