「もうしこむ」の送り仮名は「申し込む」、「もうしこみ」は「申し込み」。では、「もうしこみ用紙」や「もうしこみうけつけ期間」のような場合は、新聞ではどう書くことにしているでしょうか。

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 前回まで2回にわたり、朝日新聞の送り仮名ルールの話題を取り上げました。

  キタルとキタル(2015年9月9日)
  「独自の送り仮名」始りと終り(2015年10月14日)

 いずれも「単独の語」の送り方の話が主でしたが、一線で記事を書いている記者にとって、単独の動詞や形容詞などは「学校で教わった通りに送ればよい」というものがほとんどなので、あまり迷うことはありません。実際の新聞づくりで注意が必要なのは、複数の語を組み合わせて使う場合です。
 今回は、冒頭で触れた「もうしこみ用紙」や「もうしこみうけつけ期間」のような複合語の送り仮名が、新聞社の表記ルールのなかでどのように扱われているのかをご紹介したいと思います。

 まずは、国が定めた送り仮名の基準である内閣告示「送り仮名の付け方」(1973年)で、複合語の送り仮名がどのように扱われているかを見ておきましょう。
 この内閣告示では、「複合の語」について「通則6」「通則7」の二つのルールが示されています。「通則6」は、複合語はそれぞれの部分を単独で使うときと同じように送ることを示しており、例えば「もうしこむ」という語は、単独の動詞「申す」と「込む」の送り方に従って「申し込む」と送ります。なお、読み間違えるおそれのない場合は「申込む」のように省いてもよいことになっていますが、これは本則ではなく「許容」であり、新聞では使いません。

 一方の「通則7」は、上の通則6とは逆に、慣用に従って送り仮名を省くものを示しています。

写真・図版

 ごらんの通り、通則7にはさまざまな語が掲げられていますが、最後の「注」でわざわざ強調しているように、当てはまる語がすべて挙げられているわけではありません。「だいたいこういったもの」という例示であるため、ほかにどんな語が当てはまるのかは、それぞれの判断によって異なることになります。もともと送り仮名は一般に緩やかな運用が行われており、複合語の送り仮名に揺れが生じても、通常は大きな問題にはなりません。

■売上高の仲間を列挙

 しかし新聞づくりにあたっては、通則6(送る)と通則7(送らない)の「境界線」を決めておかないと、同じ複合語なのに書き手や記事によって送り仮名が違う、という事態が容易に生じます。
 特に、通則7の例(1)ウのうち「売上((高))」などの経済関係の複合語は、かっこの外側・内側とも、かなり多くの「同類の語」が想定されます。こうした経済関係の用語はニュースに頻繁に登場しますから、「同類の語」にどんなものが含まれるかを、できるだけ細かく決めておく必要があります。

 そこで、新聞社や通信社では、「売上((高))」のようなパターンの経済関係の複合語について、「前半の語」「後半の語」をそれぞれ列挙した表を設けて運用しています。この表に含まれる語の組み合わせの場合は前半の語の送り仮名を省き、それ以外の場合は送り仮名を付ける、というものです。

 朝日新聞で現在使用しているのが、以下の組み合わせ表です。

比留間 直和(ひるま・なおかず)

1969年生まれ。学生時代は中国文学を専攻。1993年に校閲記者として入社し、主に用字用語を担当。自社の表外漢字字体変更(2007年1月)にあたったほか、社外ではJIS漢字の策定・改正にも関わる。