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(公約を問う)10:TPP・農業 「聖域守る」中身はあいまい

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TPPへの各党のスタンス

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赤城山麓(さんろく)で「低脂肪牛」を育てる小堀正展さん=前橋市市之関町、小山田研慈撮影

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農業分野の各党の主な公約

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TPP交渉での日本の「攻め」と「守り」

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経済部・古谷祐伸記者

 日本は参院選直後の23日から「環太平洋経済連携協定」(TPP)の交渉に参加する。TPPに入るメリットは何か。日本の農業は大丈夫なのか。しかし、この大切なテーマは参院選でほとんど語られず、農家の不安が強まるばかりだ。

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■自民、政策集と使い分け

 【古谷祐伸、編集委員・小山田研慈】ジュウジュウと音をたてるハンバーグをはしで割ると肉汁があふれる。だが、味は見た目よりあっさり。

 ハンバーグ(120グラム)が2枚にごはんとみそ汁がついて1080円。東京・赤坂に4月に開店したレストラン「俺の牛」の「低脂肪牛」を使ったランチだ。

 「女性に評判がいい」。ここの運営会社役員をする小堀正展さん(33)は話す。本業は群馬県の赤城山麓(さんろく)で牛を育てる農家だ。

 和牛と言えば、サシ(脂分)が多くて高級品という印象だが、健康や価格を意識する人も増え、最近では弱点にもなっていた。

 もともとサシが少ないホルスタインを肉用に育てていた小堀さん。「低脂肪牛」という名を考え、1年前から通信販売を始めた。

 しかし、日本がTPP交渉に参加することで暗雲が漂う。輸入牛にかかる関税がなくなると、サシが少ないオーストラリア牛が安く入ってくる。

 「牛の価格全体が下がるのではないか」。赤城山麓には畜産・酪農家が約500戸あり、「地域経済にも影響する」と心配する。

 安倍晋三首相は3月、TPP交渉参加を決めた。だが、今月10日の金沢市の街頭演説では、TPPについて「農業はしっかり守る」などとしか語らなかった。

 自民党のTPPに関する公約もかなりあいまいだ。「守るべきものは守り、攻めるべきものは攻め、国益にかなう最善の道を追求する」。何をどう守るかは示されていない。

 公約といっしょに発表した総合政策集には、コメ、麦、乳製品、牛・豚肉、砂糖の原料(テンサイ、サトウキビ)を重要5品目に挙げ、関税を守れなければ「脱退も辞さない」とする。ただ、高市早苗政調会長は「目指すべきもので、公約ではない」と言う。

 日米関係を重視する安倍首相は、TPPをまとめたいという意向が強い。そのためには「5品目すべては守れない」という見方が政府内にも多くある。

 選挙で影響力を持つ農協や農家向けには5品目を守る姿勢を見せる。だが、約束はしない。どんな結果でも「公約は守った」と言えるようにしているのだ。

 TPP交渉への参加を推進した民主党も玉虫色だ。交渉に参加するものの、「脱退も辞さない厳しい姿勢で交渉する」と言う。

 はっきり賛成するのは、日本維新の会とみんなの党だ。みんなは、日本がTPP交渉で通商ルールづくりを主導し、中国などに対しても優位に通商交渉を進めていくと主張している。

 一方、ほかの野党は断固反対だ。共産党は「自国農業を壊す」と批判し、社民党は「食料主権や多様な農業基盤を守る経済連携を進める」と対案を示す。

■手厚い保護か改革か

 安倍政権は支持団体の農協の反対を押し切り、TPP交渉への参加を決めた。この埋め合わせのため、自民党の公約には派手な目標が盛り込まれた。

 10年間で農業や農村の所得を倍に増やす計画だ。そのために、農地を集めて大規模化する▽農林水産物の輸出を増やす▽農家が加工・販売に乗り出す「6次産業化」を進める、という。

 「1970年代、80年代にはやれた。できないはずがない」。安倍首相は10日、金沢市でこうぶちあげた。ただ、いずれもこれまで進めてきた政策で、目新しさはない。農家にも実現を疑う声は多い。

 一方、民主党は政権についた後の10年度から始めた「戸別所得補償制度」を法律でしっかり定めるという。農家に直接お金を配る制度で、農家には評判がいいため、民主党の実績として強調している。多くの野党が、農家に直接お金を配る制度を公約に掲げる。

 これに対し、日本維新の会とみんなの党は「痛み」を伴う改革を主張する。ねらうのは、コメの減反政策を段階的に廃止することや農協の改革だ。

 減反は70年から始まった。コメ農家の収入を確保するため、政府が毎年、コメの価格が下がらないように生産量をしぼっている。

 これが、安いコメをつくって輸出を増やしたり、麺や菓子などの原料として消費を増やしたりするのを妨げてきたとも言われる。

 とくに減反廃止に反対するのが農協だ。国内の農家252万戸のうちコメ農家は170万戸を占める。コメ価格が下がれば、農業をやめる人が増えて農協の組合員が減るため、コメの販売手数料や肥料・農薬の販売も減る。貯金や共済(保険)の販売にも響く。

 そこで、みんなは農協改革を主張する。農協の利益の7割を占める金融部門(貯金や共済)を分離し、本業の農産物販売などに集中させるべきだという。金融のもうけがあるため、農産物販売に力が入らないという指摘もある。

 「(農協などの)業界団体から支援を受け、団体がいやなことは外している」。農協の支援を受ける自民党に対し、維新の橋下徹共同代表も7日のテレビ討論会で、こう批判した。

 自民党幹部は「(選挙後に)農政改革は絶対やる」と言う。その時に減反や農協という「岩盤」に切り込むのかどうか。だが、安倍政権は参院選ではその議論を封印し、有権者にも農家にも判断材料を示していない。

■GDP3・2兆円増の試算

 TPPは輸入品にかける「関税」を原則なくしたり、投資しやすい環境を整えたりして、参加国の貿易や投資を活発にしようという取り組みだ。

 政府の試算では、TPPで関税がなくなれば、自動車などの輸出が伸びる。工場などで働く人の給料も増えて消費も伸び、10年後には実質国内総生産(GDP)は3・2兆円増える。

 参加国で投資のルールが統一されれば、日本のコンビニエンスストアなどサービス業も海外に進出しやすいという意見もある。著作権のような知的財産の保護ルールも話し合われる。

 一方、政府の試算では海外から安い農産物が入り、国内の農業生産額が3兆円減る。農家は輸入農産物に押され、激減するおそれがある。食料自給率(カロリーベース)は40%から27%に落ち、日本人が食べる7割強が輸入農産物になる。

■あすからTPP会合 日本、初交渉は23日

 【藤田知也】TPPの第18回交渉会合が15〜25日の11日間、マレーシアのボルネオ島北部コタキナバルで開かれる。日本は、90日間に及ぶ米議会の参加承認手続きが終わる23日午後まで「正式メンバー」になれないため、23日午後から交渉に初めて参加し、2日余りの「短期決戦」で最初の主張を訴える。

 日本から鶴岡公二・首席交渉官ら総勢100人近い交渉チームが22日に現地に入る。これまでの交渉経過が記された文書などを見られるのも正式メンバーになる23日午後以降になり、急いで交渉記録を読み込む。

 日本は自動車など工業品の関税をなくすよう求める一方、コメや乳製品など「重要5品目」に挙げる農産物は輸入品にかける関税を守るよう訴える。

 TPP交渉参加国は日本が加わって12カ国になり、世界の国内総生産(GDP)の4割近くを占める。8月下旬〜9月上旬に次の交渉会合を開き、10月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で大筋合意したうえで年内の妥結(最終合意)を目指す。ただ、関税などで交渉は遅れており、「10月の合意は厳しい」(外務省幹部)との見方が広がっている。

     ◇

 〈視点〉支援対象絞り育てる政策を

 【経済部・古谷祐伸記者】山形県での取材で農家の男性が言った。「地域の農家はあと数年でやめる年寄りばかり。真剣さにも欠ける」。TPPとは関係なく、農業の基盤が壊れる寸前にあることを実感した。

 後継者がいないのは、意欲があっても収入に不安があるからだ。政府はコメづくりを農業法人を中心に大型化するという。法人は個人より経費や営業実績を蓄積できる。まずこれらのデータを使い、どれだけコストを削り販売を工夫すれば、収入を確保できるかを分析してほしい。

 TPPに入っても入らなくても、農業の将来は厳しい。農家にお金を配るにも、財政には限りがある。意欲のある農家や法人に絞って支援し、育てる政策を打ち出す時期にきている。

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