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(政策を聞く)原発回帰:「火力と併用、現実的な政策」「稼働コスト、火力より割高」

写真・図版

21世紀政策研究所研究主幹・澤昭裕さん(右)と立命館大教授・大島堅一さん

 東京電力が起こした福島第一原発事故で、日本の原発政策は大転換を迫られた。国内の原発50基は昨年5月でいったんすべて止まり、今は関西電力大飯原発(福井県)が動くのみ。原子力規制委員会が8日から新しい規制基準の適用を始め、4電力会社が5原発計10基の再稼働を申請した。

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 安倍政権は、民主党政権の「30年代に原発稼働ゼロ」を白紙に戻し、規制委の審査を通った原発の再稼働を進める方針だ。自民党も公約で「地元自治体の理解が得られるよう最大限の努力をする」と明記した。

 ほかの各党は、連立与党の公明党を含めて「脱原発」や「脱原発依存」を掲げる。民主は「30年代稼働ゼロ」を守りつつ、規制委が安全と判断した原発の再稼働は認める。みんなの党は「20年代の原発ゼロ」、日本維新の会は「30年代までのフェードアウト」を掲げる。共産党、生活の党、社民党、みどりの風は再稼働も認めず、速やかな脱原発を主張している。

■21世紀政策研究所研究主幹・澤昭裕さん

 ――安倍政権が「原発回帰」の姿勢を強めています

 「現実的な対応だ。民主党政権は脱原発を急ぐあまり、経済への負担を軽視したり、自然エネルギーの導入目標が高すぎたりして、無理が大きかった」

 ――原発事故の反省がないという批判もあります

 「かつてのように原発の新設や建て替えに前向きな発言をしている人は政権にいない。安全が確認されない原発は動かさないとも言っている。原発が減っていく分を火力発電で補うため、石炭火力発電所を建てやすくする規制緩和をしたり、天然ガスをめぐり米国やロシアとの資源外交を強化したりしている。エネルギー全体を考えた、まっとうな対応だ」

 ――国内では原発は2基しか動いていませんが、電力は足りています

 「火力発電の燃料費が年間4兆円近く増えるという問題がある。今は古い火力発電所を使って、ぎりぎり間に合わせている。大規模な停電になる不確実性がある限り、企業や病院は停電への備えを迫られる。火力発電所をつくるには何年もかかり、今ある原発の一部を動かすほかない」

 ――自然エネルギーを増やす手もあります

 「期待できる発電量が少なくて不安定なうえ、コストも高いので、すぐに原発の代わりにはならない。自然エネルギーが発電量の2割に達し、将来の脱原発を掲げるドイツだって、今は原発を動かしている」

 ――原発は過酷な事故のリスクを抱えています

 「私たちは飛行機や自動車の事故、受動喫煙など生死に関わるリスクに囲まれており、リスクをゼロにはできない。火力発電に頼るリスクも大きい。いろいろな発電方法を組み合わせてリスク分散するしかない」

 ――安倍政権のエネルギー政策の課題は何ですか

 「原発の位置づけをあいまいにしたまま、電気料金自由化などの電力システム改革を進めようとしているのは問題だ。事故時の賠償をどうするのか、放射性廃棄物をどう処理するのか、安全規制をどう進化させていくのか、という課題についても早く総合的な解決策を示さなければならない」

    ◇

 さわ・あきひろ 21世紀政策研究所研究主幹。経済産業省課長、東大教授を経て現職。著書に「精神論ぬきの電力入門」(新潮新書)など。55歳。

■立命館大教授・大島堅一さん

 ――安倍政権は原発の再稼働に前のめりです

 「自民党は衆院選で『原発にできるだけ依存しない社会』を掲げたのに、政権交代後は原発に依存するのかしないのか、長期的なビジョンを示さないまま、再稼働に突き進んでいる。政治として無責任だ」

 ――再稼働の理由として、電力を安く供給することを挙げています

 「電気が足りないから、という議論はもう終わった。さらに費用面でも、原発の建設費や燃料費に加え、使用済み核燃料の処分費や事故が起きた場合のコストなどを加えれば、原子力が火力などよりも割高なのははっきりしている」

 ――電力会社は原発を再稼働しないと電気料金の値上げにつながるといいます

 「原発は動かしていても動かさなくても、維持費などの膨大なコストがかかる。再稼働できなければこうした費用に加え、火力発電の燃料費がかさむから、値上げという話になる」

 「だが、原発を廃炉にすれば維持費はかからず、これ以上値上げしなくてすむ計算になる。廃炉にすると電気料金が上がると勘違いする人が多いが、実際には料金はそう変わらない」

 ――しかし、電力会社は廃炉には及び腰です

 「廃炉にかかる費用を一度に処理すると巨額の損失が出るため、電力会社からはなかなか踏み出せない。原発に依存するのかしないのか、国が方針を示さないことも影響している」

 ――では、原発を新設する可能性はありますか

 「英国で最新の安全対策をした原発の建設計画が進むが、建設費は従来型の倍近くになるという。英国の電力会社は『経済性は全くない。政府の補助金がなければ建設しない』と言う。世界最高水準の安全性の原発を建設しようとしても、経済的には成り立たない」

 ――ただ、太陽光や風力などの自然エネルギー発電は割高だと指摘されます

 「発電コストは徐々に下がってきている。不安定な出力を調整する設備の費用は必要だが、こうした投資をすれば、自然エネの発電量は原発の発電分をまかなうぐらいには増やせる」

    ◇

 おおしま・けんいち 立命館大国際関係学部教授(環境経済学)。著書に「原発のコスト」(岩波新書)、共著に「原発事故の被害と補償」(大月書店)など。46歳。

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