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(公約を問う)8:年金 減額の時代迫る

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年金改革への各党の姿勢

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年金を取り巻く状況

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年金改革に関する各党の主な主張

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板垣哲也記者

 年金改革をめぐる論戦は、この参院選で少し様相が違ってきた。「少子高齢化で制度は持たない」という破綻(はたん)論に代わって、野党の多くが問題視するのは年金の「給付減」。「年金減額の時代」が目前に迫るなかで、なにが論点になっているのか。

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■民・共、最低保障を訴え/自・公、制度維持に重点

 「物価はすでに上がっている。そうした中でみなさんの年金は上がるのか。逆です。下がるんです」

 公示日の4日、盛岡市での街頭演説で民主党の海江田万里代表が強調したのは、「年金が減る」ことへの懸念だった。

 急激な少子高齢化のため、現役世代が1人のお年寄りを支える状況が「騎馬戦型」から「肩車型」になる。このままでは制度は持たない。民主党は従来、これを争点にしてきた。それがなぜ年金減額に注目するようになったのか。

 自公政権が2004年の年金改革で導入し、「100年安心」の根拠にしてきた年金の給付を抑える仕組みがある。マクロ経済スライドと呼ばれる。平均寿命が延びて年金の支払いが増えたり、保険料を負担する働く世代が減ったりするのに応じ、年金の支払いを抑える調整の仕組みだ。

 具体的には、例えば物価が2%上がっても年金は1%程度しか引き上げないという形で給付を減らす。ただ、過去の物価下落時に特例で据え置いた年金が本来の水準に戻る(特例水準の解消)まで、発動できないルールだった。さらに物価が下がるデフレ下では適用されない。そのため一度も使われていなかった。

 だが昨年、民主、自民、公明の3党が今年10月から15年4月にかけて年金を引き下げ、特例水準を解消することを決定。さらにアベノミクスや消費増税で、物価上昇が現実味を帯びる。給付調整の仕組みが動く環境が整ってきたのだ。

 このため、各党の関心も「年金の持続性」から「年金はどこまで減るのか」に移ってきた。

 だが、年金財政の安定化を求め、給付調整の環境整備をしてきたのは民主党自身でもある。従来通り最低保障年金創設など「抜本改革」の旗も掲げているものの、なにを重視しているのか、いま一つはっきりしない。

 共産党は特例水準の解消、マクロ経済スライドの実施にともに反対。併せて税金による月5万円の最低保障年金の創設を掲げる。社民党は特例水準の解消には反対だが、マクロ経済スライドについては年金額の少ない人らへの「一律の適用に反対」にとどめる。

 また生活の党や新党大地も最低保障年金や基礎年金の税方式化を掲げているが、年金引き下げへのスタンスははっきりしない。

 これに対して与党はマクロ経済スライドによって「年金制度は将来にわたって安定」(安倍晋三首相)と評価、現行制度を守る立場だ。ただ、公明党は低所得層への影響を考え「年金加算の拡充」も掲げる。

 また野党の多くは、どんな職業の人も同じ年金に加入する一元化を掲げる。これに対し、自民、公明は厚生年金の適用を非正規雇用の人らにも広げることで対応する考えだ。

 一方、これらの党と一線を画し、年金財政の安定化に重点を置くのが日本維新の会とみんなの党。納めた保険料を今の高齢者の年金に充てるのではなく、積み立てておいて自分の年金としてもらう積み立て方式への移行を主張する。

 さらに、維新の橋下徹共同代表は、7日のテレビ番組で「無駄な給付がたくさんある。年金をもらう年齢は(65歳からさらに)引き上げないとだめ。高所得者に対してはもっと大胆に負担を求めるか、年金額を下げるか」とも提案する。

■改革案、それぞれに壁

 年金は目減りさせず、給付を守る。そう主張するグループの最大の問題は、給付水準を維持しつつ年金財政をどう安定させるのかという具体案を示していないことだ。

 今の制度では、保険料の引き上げには上限がある。つまり今後入ってくるお金はほぼ決まっている。収支バランスは給付で調整することになる。給付減に踏み切らないとなると、その分は、保険料をさらに引き上げたり、税金の投入を増やしたりしなければならないが、どの党も言及はない。

 政府の社会保障制度改革国民会議では、年金の支給開始年齢を65歳よりさらに引き上げる案も取りざたされている。高齢者にも制度の担い手側に回ってもらう。同時に、年金をもらう期間を短くし、毎月の受取額の落ち込みを緩和する効果も狙うものだ。

 だが「国民会議の審議結果を踏まえ、必要な見直しを行う」とする安倍首相は、テレビでの討論で支給開始年齢の引き上げについて問われても「今の段階ではまったく考えていない」。「痛み」の議論に向き合う姿勢は乏しい。

 また税金を財源にした最低保障年金や年金の加算の提案も、対象者はどのくらいになるのか、どれだけの財源が必要なのかが、各党の公約をみても、はっきりしない。

 年金額が少ないことだけを理由に、最低保障年金や上乗せの年金を支給する必要があるのか、という問題もある。年金額が少なくても収入や資産を持っている場合もあるからだ。そうした収入や資産まで調べた上で、本当に困っている人だけに支給するとすると、生活保護のような福祉制度と違いがなくなるのではないかという疑問も残る。

 職種で異なる年金制度の一元化では、自営業者の所得把握をどうするのか、保険料のもととなる「収入」を自営業者と会社員でどうそろえるのか、事業主負担のない自営業者にどれだけの負担を求めるのか、などが課題だ。

 一方、わかりやすさを売りにする積み立て方式も多くの問題をはらむ。

 自分でお金を積み立てて長期に運用することになれば、金融市場のリスクにさらされ、一歩間違えば年金資産を大きく減らしかねない。AIJ事件をきっかけに表面化した企業年金の苦境がいい例だ。

 また、この方式では将来、インフレになった時に積み立てておいた年金の価値は大きく下がる。また収入の少ない人は積み立てられる額も少ないので、将来受け取れる年金も少なくなるという問題もある。

 さらに積み立て方式に移っても、これまでの仕送り型制度で保険料を納めてきた人たちの年金は払わなければならない。つまり、これからお金を積み立てる世代は、高齢者の給付に必要な仕送り分と、自分の積み立て分を二重に負担しなければならなくなる。これも大きな壁だ。

 そもそも、マクロ経済スライドの発動が現実味を帯びてきたとはいえ、今のままでは、再びデフレになるとこの仕組みは機能しなくなる。年金財政が悪化するリスクは依然残っている。

 デフレ下でも給付を減らすのかなど、長期的に年金財政をどう安定させるかという議論はなお残る。しかし、この点に関する言及は各党ともないのが実情だ。

■納付額右肩下がり

 人口構成や人々の働き方など、年金制度を取り巻く環境は刻々と変わる。とりわけ国民年金は、当初は自営業者中心だったのが、今は無職の人や厚生年金に入れない非正規雇用の勤め人の方が多くなった。

 このため保険料の納付率も下がっている。保険料を納められない人は将来、無年金や低年金になる可能性がある。こうした人たちの暮らしの安定をどうはかるかが、直面する課題だ。

 また、これから年金の財布に入ってくるお金は大体決まっている。今、たくさん使ってしまうと後の世代が使えるお金は減る。給付の見直しは避けられないが、下げすぎれば老後の支えとしての年金の役割が壊れかねない。どうバランスをとるかも大事な論点だ。

     ◇

 〈視点〉他の制度との組み合わせを

 【編集委員・板垣哲也】

 年金制度は入ってくるお金と出て行くお金の関係が明確だ。少子高齢社会でも年金財政を安定させようと思えば給付に手をつけざるを得ないし、給付を下げないようにするなら、その分はどこかで負担をしなければいけない。

 相反する利害にどこで折り合いをつけるか。その接点を見いだすのが政治の役目のはず。しかし現状はどの党も、自分たちが争点化しやすい部分だけをつまみ食いしているだけだ。いいとこ取りは無責任だ。

 年金制度だけですべてを解決しようとすることにも無理があるのではないか。住宅手当のような福祉制度を考えたり、所得の高い人には課税を強化したり、様々な制度の組み合わせで考える視点も大事だ。

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