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(安倍政治を問う)地球儀外交、中韓は停滞 外相会談、いきなり冷や水

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安倍首相の「地球儀外交」

 【二階堂勇、倉重奈苗】笑顔で握手を交わした直後、会談が始まるといきなり冷や水を浴びせられた。

 「4月に日本を訪問できなかったことを残念に思う。理由は十分認識されていると思う」

 1日夕のブルネイ。日韓両国の外相による約9カ月ぶりの会談の冒頭で、尹炳世(ユンビョンセ)外相が厳しい口調で岸田文雄外相に告げた。

 2人は4月下旬に東京で会う予定だった。ただ、その直前に安倍内閣の閣僚らが靖国神社を参拝したことで、韓国が反発して会談は延期された。仕切り直しの会談で尹氏があえて持ち出し、重い空気が漂った。

 前日の東南アジア諸国連合(ASEAN)と日中韓の外相会合では岸田外相が「東アジアの協力」を唱え、中国の王毅(ワンイー)外相は「世界の中心はアジアに移りつつある」と強調。だが、アジアの大国の両外相はあいさつもかわさなかった。

 安倍晋三首相は民主党政権当時の「外交敗北」を批判してきた。だが、政権が交代しても中国公船は変わらず沖縄県の尖閣諸島周辺での活動を繰り返し、1日も領海に4隻が侵入した。昨年8月に当時の李明博(イミョンバク)大統領が島根県の竹島に上陸して以来、韓国との関係もこじれている。

 日韓外相会談の再調整は、米国で動き出した。

 6月18日、米ワシントン。外務省の杉山晋輔アジア大洋州局長(現・外務審議官)と韓国の趙太庸(チョテヨン)朝鮮半島平和交渉本部長が顔を合わせた。「私が調整する」という米国のデービース北朝鮮政策特別代表に委ね、北朝鮮問題をめぐる日米韓局長級協議のため集まった機会を利用したのだ。

 杉山氏は趙氏に「日韓は色々と問題があるが、尹外相に伝えてくれないか」と外相会談を呼びかけた。前向きな反応だったとはいえ、日本担当ではない趙氏のルートに頼らざるを得ない状況に陥っていた。

 同じ日、駐日大使就任を控えた韓国の李丙●(●は王へんに其、イビョンギ)氏が岸田氏を東京の外務省に表敬訪問。李氏は「(ブルネイで)両外相の意見交換を希望する」、岸田氏は「楽しみにしている」と語り、ようやく調整が始まった。

 日本側は「李氏は朴槿恵(パククネ)大統領に近く貴重なパイプになる」と期待する一方、外相会談で歴史認識問題が目立たないよう事前に調整を重ねた。ようやく会談が実現し、外務省幹部は「日韓は日中とは違う」と一息ついたが、思惑は外れた。

 ■対米関係に悪影響懸念も

 安倍首相は1月の所信表明演説で「外交は単に周辺諸国との二国間関係だけを見つめるのではなく、地球儀を眺めるように世界全体を俯瞰(ふかん)する」と語った。首相の「地球儀外交」だ。

 昨年末の就任以来、首相は13カ国を訪問した。原発のトップセールスなど経済連携の強化が主眼。自由や民主主義といった価値観を共有する国との関係を強め、地球儀にピンを刺すように足場を広げている。

 外務省幹部は「自民党が参院選で勝てば久々の安定政権だ。訪問していない国にどんどん行っていただく」と計画を練る。

 第1次内閣の安倍首相が退陣した2007年以降、首相は毎年交代。そのたびに主要国との会談が優先され、他国との外交に手が回らずに中国に後れをとる現状を打開する狙いがある。

 「地球儀外交」の足元で東アジアが揺らぐなか、首相は日米同盟強化による安定を唱える。オバマ大統領が主導する環太平洋経済連携協定(TPP)への交渉参加を表明し、ハーグ条約の加盟も確実にした。

 誤算は、同じ価値観のはずの韓国との関係改善の糸口が見えないことだ。

 首相はまず日韓関係の修復を急ぐ。2月の施政方針演説で、韓国は「自由や民主主義といった基本的価値と利益を共有する最も重要な隣国」と強調。だが、4月に調整していた外相会談は延期になり、このころには首相自身が「侵略の定義は定まっていない」などと国会で答弁。歴史認識で中韓両国に波紋を広げた。

 折しも北朝鮮が在日米軍基地や米本土を射撃圏内として挑発を強めていた。日韓外相会談の延期に、外務省幹部は「朝鮮半島有事に日米の支援が欠かせないことを韓国は忘れたのか」と不満をあらわにした。

 一方、朴氏は6月27日、韓国大統領で初めて日本より先に中国を訪れ、習近平(シーチンピン)国家主席と会談。両首脳の共同声明では「歴史などによる問題で域内国家間の対立と不信が深まっている」と暗に日本を批判した。

 中韓の接近は、日米韓で連携する北朝鮮問題の対応に影を落としかねない。在日米軍幹部は「中韓対日米の構図が強まれば北朝鮮問題の解決はより難しくなる」と懸念。日米韓による6月の局長級協議や7月1日の外相会談は、米国にとって北朝鮮問題での連携確認を通じて日韓に対話を促す狙いがあった。

 1日の日韓外相会談後、ケリー米国務長官は岸田氏に会談の様子を尋ねた。岸田氏の説明に「よかったね」と答えたという。

 米プリンストン大のフリードバーグ教授は26日、東京都内で講演し、歴史認識問題で日本に苦言を呈した。「同じ価値観の韓国との関係を悪くし、対米関係にも悪影響がある。得をするのは、日本が国際社会で孤立するよう望む中国だ」

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