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2012年11月29日10時11分

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〈仕事のビタミン〉小方功・ラクーン社長:11

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小方功(おがた・いさお)1963年生まれ、北海道出身。北大工学部を卒業後、大手建設コンサルタント会社勤務。起業を目指して脱サラし、93年に現在の「ラクーン」を創業する。衣類や雑貨のネット問屋というビジネスモデルで06年に東証マザーズ上場。

■遊びのない人生なんて

 少し前になりますが、9月末に沖縄の水納島(みんなじま)へ、若手社員5人を連れて旅行に出かけました。

 島でのメーンイベントは素潜り。知り合いの漁師に立ち会ってもらい、モリを持って魚を追います。つぶ貝やシャコも取れる。夜はそれらを刺し身で頂く。初めての体験に、みんな大興奮でした。

 沖縄は大好きな場所です。離島の海の美しさはこたえられません。でも、私がそれ以上に感動するのが豊かな文化。特に音楽。夜、街の居酒屋へ行くと、三線(さんしん)を持ったおじさんが歌っている。時には数百年前の民謡も流れる。それが現代にも味わいがある。泡盛を片手に耳を傾けます。

 実は店の客は半分ぐらい聴いてやしないんです。でも、それで良い。いや、それが良い。そこに当たり前のように歌が流れ、聴きたい人が聴く。それって音楽の基本だと思いませんか? 音楽と酒は、昔から理屈抜きに人生に必要な存在なのだと再認識します。

◆起業目指して封印

 さて、この大好きな沖縄に私は年に2回は足を運びます。うち1回は必ず社員を連れて行く。そこで遊びを伝授します。

 私は元々、自然の中での遊びが好きでした。素潜りでの魚取りも、建設コンサルタント会社でサラリーマン時代に覚えました。当時はバブル真っ盛り。他にもスキューバやスキー、ゴルフ、パラグライダーと色んな楽しみに挑戦しました。

 でも、起業を志して29歳で脱サラすると同時に、それらの道具は一切捨てたんです。「巨人の星」の主人公が、魔球を体得するのに山ごもりするように、俗世との関係を断って集中しようと思った。さらに起業後も10年は、封印を誓いました。

 10年たち、事業はようやく形になってきました。周りには、ここまで一緒に働いてきた社員がいます。部長でも30歳ちょっと。私が広げた風呂敷を信じ、仕事一辺倒の日々についてきてくれた仲間です。彼らを見てふと思いました。

 彼らは当然、この先もここで年を取ろうとしている。なのに、今後も仕事ばかりでよいのだろうか。職場の若い人は、先輩を見て10年後、20年後をイメージする。これから来る若者たちに、彼らは魅力的に映るだろうか、と。

 20歳代は脇目もふらずに働いて、自分の限界を知ることも大切だと思います。でも、30歳になったら、仕事と家の外に、習い事や趣味を見つけるのもいい。のめり込むのはまずいけれど、仕事にも効果を生むような。水泳選手が、練習にほかのスポーツを取り入れたらタイムが伸びるような。そんな楽しみがあってもいい。

 よし、ここは一つ、社員を連れ出して遊ぼう。

 そこで、思い出したのが、封印した遊びたちでした。

◆可能性を広げる

 これからのシーズンはスキーにも行きます。でも、やっぱり一番は海。毎年、沖縄のほかに伊豆の隠れた名所へも行きます。

 ちなみに若い世代は、海にあまり良い印象が無い人も多いようですね。車を持っている人は少ないし、近場にきれいな海も少ない、着替える所を探すのも大変……と。

 最初は誘っても「海が苦手で…」とか「水の中には入りませんよ」などと及び腰の社員も多かった。でも、そういう社員も結局、楽しそうに泳いでいる。

 遊びの食わず嫌いは損です。海水浴でもスキーでも、一回やってみること。やってみて合わなければやめればいい。素晴らしい遊びは下手な勉強より学びが多い。人の可能性を広げるんです。

 振り返って見れば、私自身がそう。仕事に使っている能力の大半は遊びから体得しました。仲間と行動を共にする段取りや要領、伝える力、センス、価値観などです。

  経営者仲間の中には、部下との飲み代や時間を「コスト」と捉える人もいる。確かに、余計な手間や経費という考え方も一つでしょう。

 でも私は、会社って、仕事だけ教えてたんじゃうまくいかないと感じます。なんというか、人生の価値そのものを教えるところであってもいい。遊びも大切な要素だと思います。

 会社はたぶん、様々な可能性を持っている。若い人たちにそう思ってもらえる場所にしていきたいと思います。(聞き手・和気真也)

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