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2012年10月18日10時11分

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〈仕事のビタミン〉小方功・ラクーン社長:9

写真・図版

小方功(おがた・いさお)1963年生まれ、北海道出身。北大工学部を卒業後、大手建設コンサルタント会社勤務。起業を目指して脱サラし、93年に現在の「ラクーン」を創業する。衣類や雑貨のネット問屋というビジネスモデルで06年に東証マザーズ上場。竹谷俊之撮影

■人材を探し、生かすには

 9月11日。サッカーのブラジルワールドカップ最終予選に挑んでいる日本代表が埼玉で熱い試合を繰り広げていたころ、ラクーン社内もある一つのイベントで、盛り上がっていました。

 「もしもツアーズ」。全員参加型のお祭りです。

 社員4人が一つのチームをつくり、「もしも自分がはとバスツアーのプランナーだったら」という設定で、予算1人1万円の夢の旅行を計画。実践したその成果をチラシにまとめ、おもしろそうなプランを競いました。その日は事前審査で選ばれた上位10チームが全社員の前でプレゼンし、最優秀チームを決めました。

 予算枠のなかで知恵と工夫を凝らして生み出されたツアーは、有名な観光地巡りや有名企業の工場見学を取り入れたものから、社員の地元を歩き回って陶器作りやそば打ちに挑戦するローカル色の強いネタまでさまざま。3分間のプレゼンは、ビデオ映像有り、歌有り、仮装ありで、みんなでゲラゲラ笑いながら楽しみました。

 なんでこんなことをするのか。

 きっかけは私の悩みでした。私は社員との旅行が好きです。仕事を離れたところでのコミュニケーションは、同僚の意外な一面を知ることができるし、信頼関係も強まるから。でも、全員と行くことはできません。どうしたものかと思案していたところ、1人の社員が発案してくれたのがこのイベントでした。

 チームの4人は部門の壁を越えて編成しました。日ごろ一緒に仕事したことない「同僚」と一緒に企画を考え、実行する。なかなか無い経験でしょ。中にはめんどう臭がる社員もいましたが、終わってみればえらく楽しかったというコメントが飛び出した。

◆ヒューマン・リソース・マネジメント

 今回のようなイベントやコンテストを、ラクーンでは定期的に開きます。学生だと、文化祭では音楽がうまいヤツ、体育祭では運動神経が良いヤツがヒーローになった。彼らはたとえ勉強で目立たなくても、自信を持って学校生活が送れた。会社でも仲間に認められることは大事です。

 でも、仲間の個性や特技を知る機会は意外と少ない。だから、それらを引き出せる色んな機会をつくろうと思うのです。

 最近では運動会を復活させている会社が増えていると聞きますね。健康的でそれも良い。ヒーローも生まれるかも。ただ、個人的には、全社員参加型を目指すなら最適な催しではないと思っています。現代の会社は、もっと色んな問題に配慮するべきだと思う。

 例えば、子育て中の社員は土日開催のイベントに出てきづらい。妊娠中の社員もいるかもしれない。太陽の光が嫌いだっていうインドア派もいるかも。そんなの引っ張り出せよ、と思われるかもしれませんが、20代なら色々挑戦しろと言えても、30歳超えてる人間に無理やり走らせるのは、ちょっと……ね。

 その意味で「もしもツアーズ」は優れた企画でした。4人の中に妊婦がいれば、運動やお酒がからむ旅行は避けるでしょう。仕事の合間に考え、実践するのだから、互いの業務内容も把握する。メンバーは自然と、会社には色んな事情を抱えた人がいることを知り、尊重と配慮を学びます。

 ところで、イベントを積み重ねる根底には、仕事ぶりからだけでは気づけない社員の才能を発掘したいという狙いもあります。才能を知ることで、より適した仕事を与えられるから。

 人は誰だって、仕事で頑張りたいし、認められたいし、感謝されたい。その意欲が満たされる環境をつくるのが経営者の務め。働きやすい職場で才能を発揮できれば、社員の幸せ度は変わってくる。ヒューマン・リソース・マネジメントと呼ばれる考え方です。創業してからずっと、そのために必要なことは何かを手探りで追求しています。

◆壁をなくす

 マネジメントには努力も必要です。前提として、社内からいくつかの偏見という壁を排除しなくてはいけません。

 一つは「性別」の壁。女性が男性に自然に反論してフランクに意見交換できているか。「年齢」の壁というのもあります。年上に意見できる環境か。さらに「肩書」に対する壁。役職は係や日直のようなもので、社員をくくるヒエラルキーになってはいけません。ラクーンでは互いを肩書ではなく「さん」づけで呼び合うのがルールです。社長の私も「小方さん」が基本です。ほかに、「入社歴」も壁ですね。

 これらが徹底されていれば、年功序列での昇進に意味はなく、年上の意見だから正しいということもなくなる。たとえ若手社員やバイトの提案であっても、良いアイデアは良いアイデア。逆に言えば、若手やバイトも提案力を持つべきです。これを言うと、大企業から転職してきた社員なんかはドン引きするんですけどね。

 時に厳しくもなります。

 社員もバイトも入社後に受ける研修で、私の口から直接伝えることの中に、三つの最重要注意事項があります。「本人のいないところで人の陰口を言わない」「他人の待遇をねたまない」「派閥を作らない」という三つです。この三つが組織を壊す要因で、三つがなくなればすばらしい社風が守られる。

 ダントツに多いのが、上司への悪口でしょう。1度や2度はみんな、酒を飲みながらでも「部長の言ってることがよくわからん」とやるんです。耳にしたら私は必ず「それは約束違反。本人に直接言いなよ」と諭します。若手でも年上の役職者に意見して良いルールなのだから。ただ、そのときに、興奮して声を荒らげずにユーモラスに言うコツもついでにアドバイスします。ほとんどの社員が実際に意見してみたら「部長は拍子抜けするほど聞いてくれました」と言います。

 さて、こうした人材活用に対する私の理想を社内で形にしてくれる、ある人事担当の若手社員がいます。商社から転職してきた彼は「人事だけで売り上げを倍にする」と言います。

 次回は、個性豊かなうちの社員と、彼らがどうやってうちで働くようになったかを少しお話ししましょう。(聞き手・和気真也)

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