理念が揺らぎ、まとまれぬ米/問題先送り、停滞懸念の日本 朝日地球会議2021=訂正・おわびあり

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 (19面から続く)

 ■今、民主主義を一から考える

 昨秋の米大統領選で結果を覆そうとする動きが出るなど、民主主義が行き詰まったかのような事態が各地で起きている。米ジャーナリストで歴史家のコリン・ウッダード氏と、宇野重規・東京大学教授(政治学)が坂尻顕吾・本社政治部長の司会で現状を議論した。

 米国では1月、落選を受け入れないトランプ氏の支持者らが連邦議事堂を襲撃する事件が起きた。ウッダード氏は「米国は(南北戦争があった)1860年代以来の危険にさらされている」と危機感を示す。

 ウッダード氏は、建国期の入植者の流れに注目し、米国内に特性の異なる「国」(ネーション)が存在すると唱えた著書「11の国のアメリカ史」(邦訳・岩波書店)で注目を集めた。現在の分断の背景に今も続くこうした地域特性があるとして、「独立宣言で示された理想を核に結束してきたが、こうした理念が揺らぐとほかにまとまる要素がない」と語った。

 これに対し、宇野氏は日本の政治体制そのものは安定しているとする。半面、英調査機関が毎年発表している「民主主義指数」で日本は21位にとどまり、「不完全な民主主義」に分類されかねないレベルだったことを挙げ、「『安定』というよりも、多くの課題に直面せず、問題を先送りすることで『停滞』を続けている表れという可能性もある」と懸念を示した。

 コロナ禍で問題も浮き彫りになった。ウッダード氏は、4500万人以上が感染し、70万人超が死亡した米国について、州レベルでの対応の違いが被害を拡大した要因の一つ、との見方を示した。宇野氏は、日本では政治指導者が政策を説明し、国民の理解を得た上で進めるというプロセスが欠けていたとして、「民主主義の観点から大きな問題を抱えていた」と見る。

 一方、世界に目を向けると中国が国際的な存在感を増し、ロシアも権威主義色を強める。民主化したはずのハンガリーやポーランドでも権威主義政権が台頭した。ウッダード氏は、米大統領選にロシアが影響力を及ぼそうとした疑惑などに触れ、「米国やほかの自由民主主義国の弱点を突き、社会の抱える矛盾を広げようとしている」と警戒感をのぞかせた。

 宇野氏は、民主主義の危機はこれまでも繰り返されてきたとして、「より長期的に見ると、多様な声を反映し、修正していく能力を持つ民主主義の方が最終的に優位性を持つ」との見方を示した。鵜飼啓

 ■アメリカはどこへ向かうのか:町山智浩の最前線報告 マスク・ワクチン、論争に トランプ人気は先鋭化

 コロナや政治の分断の中で、米国はどこへ向かうのか。米国在住の映画評論家・町山智浩さんが現地で取材した映像を交え、文筆業の能町みね子さんと語り合った。

 米国ではコロナ禍で混迷が続く。共和党が強いテキサス州では「マスク着用の義務化を禁止する」との知事の命令が出され、さらにそれに対する訴訟が起きるなど、マスクやワクチンが政治問題化し、論争は激しい。ワクチン接種率は出遅れていた日本よりも低く、米国のコロナの死者は70万人を超えた。

 米国に分断をもたらしたトランプ前大統領は、24年の大統領選に再び参戦するとの臆測もある。町山さんは各地のトランプ支持者たちの映像を見せながら、「支持者は先鋭化し、個人崇拝のようになりつつある」と指摘。共和党もトランプ氏の人気に依存する状態になっていると話した。一方で、「トランプ信仰」に火を付けたグループに話を聞くと、当初はそこまでトランプ氏を信奉していたわけではなく、彼らの手を離れて熱狂的な人気が広がったこともわかったという。

 能町さんは、分断が深まるネット世論の動向に注目。日本では社会問題を真面目に議論しようとすると「上から目線」で嘲笑されると指摘し、「真面目な人を一度つぶしてオチにするという、テレビのお笑い番組の作り方も影響しているのではないか」と語った。

 米国では著名人が支持政党を明確にして投票を呼びかけている。前回の大統領選では投票妨害があったと言われるが、投票率は約65%あった。能町さんは、日本の芸能界には政権に反することを言いにくい構図があると指摘しつつ、最近は一部の芸能人などが声を上げ始めたことに変化を感じると語った。(コーディネーター・宮地ゆう

 ■気候安全保障と地政学 風力発電、急速に進む中国・英

 気候変動を安全保障の問題としてとらえる「気候安全保障」という考え方が、国際政治の世界で一般的になっている。再生可能エネルギーが急速に広がる中、石油や天然ガスといった化石燃料を元にした地政学も大きく変わっている。

 国立環境研究所社会システム領域長の亀山康子さんは、水害や干ばつなど気候変動が原因で災害が頻発し、深刻化する食糧不足で政情が不安定になって難民が増えたり、感染症が蔓延(まんえん)して市民生活が脅かされたりするなど、安全保障上の問題が起きていると指摘。「日本では台風や水害を地震と同じように人間がどうしようもない天災ととらえている。しかし、海外では地球温暖化で増えているので、これ以上増やさないように、温室効果ガスの排出を減らさなければいけないと考えるようになっている」と話した。

 中国では習近平(シーチンピン)国家主席が「2030年までに温室効果ガスの実質的な排出を減少に転じさせ、60年にはゼロにする」と表明。風力や太陽光による発電が急速に普及し、輸出もしている。中国は世界のエネルギー事情を大きく変えようとしている。

 朝日新聞の奥寺淳・広州支局長は「現地の取材で感じたのは勢い。その規模と速さ。風力発電所をつくるのも、日本では10年かかるのが1年ほどでできてしまう。世界をリードし、外交上も大きな力を持とうとしている」と指摘した。

 英国で急速に普及している洋上風力発電を取材した金成隆一・ヨーロッパ総局員は「英国では政治家が指導力を発揮し、洋上風力発電を導入するための計画を示し、投資家に長期的な確実性を提供してきた。英国で成功した欧州の風力発電の事業者は同じ島国の日本への参入に意欲を示している」と話した。(坪谷英紀)

 (20面に続く)

 <訂正して、おわびします>

 ▼11月8日付「朝日地球会議」特集面の「アメリカはどこへ向かうのか:町山智浩の最前線報告」で、「テキサス州では『マスク着用の義務化を禁止する』との大統領令が出され」とあるのは、大統領令ではなく「知事の命令」でした。記者が記事にまとめる際に誤りました。

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