(社説)ヒアリ阻止 危機意識を共有しよう

社説

[PR]

 毒を持つ特定外来種ヒアリ東京港のふ頭で相次いで見つかった。環境省東京都の調査によると、巣と50匹以上の女王アリが確認され、すでに他の場所に広がった可能性もあるという。定着を阻止する正念場ととらえ、官民が協力して対策に取り組む必要がある。

 南米原産のヒアリは1930年代に米国に侵入し、今世紀に入ってオーストラリアや中国、台湾などに生息域を拡大した。日本でも2年前の兵庫県の港を皮切りに各地から通報が届くが、これだけ多くの女王アリがいたのは初めてだ。

 日本に定着してしまった外来種は少なくないものの、ヒアリは想定される被害が突出している。外国の事例が示すのは、放置していると、社会が背負うコストがはね上がることだ。

 米国では、住宅や公園への侵入、農作物・家畜の被害、通信設備や電化製品の損傷など、経済損失が年間7千億円に上るとの試算がある。オーストラリアは生息域の拡大を抑えるために約300億円を費やした。

 政府は先日、2年ぶりとなる関係閣僚会議を開き、巣があった青海(あおみ)ふ頭周辺での対策の徹底を決めた。アリが移動する目安となる周囲2キロ圏内に加え、それを超えた場所でも、巣を作りやすい公園や道路脇を中心に調査と防除を強化する。効果をあげるには、行政当局だけでなく港湾関係者や貨物を取り扱う業者との連携が不可欠だ。

 青海ふ頭は観光地で知られるお台場に近く、周りには商業施設やマンションも立つ。こうした施設の管理者や住民とも危機意識を共有することが大切だ。調査・防除への理解、ヒアリと思われる個体を見つけたときの連絡――。そうした協力の積み重ねが成否のカギを握る。

 正しい情報提供も欠かせない。ヒアリに刺されると強い痛みがあるが、命に関わるのは呼吸困難など急性のアレルギー反応を起こした時だけだ。むやみに在来のアリまで駆除してしまうと、ヒアリの侵入リスクがかえって高まる恐れがある。

 寒くなるにつれ、ヒアリの活動は低下していくことが予想される。だが安心はできない。冬を越えて生き延びるとみられ、数年単位での監視と警戒が求められる。国や自治体には、そのための人員や予算をしっかり確保してもらいたい。

 06年にヒアリの巣が見つかったニュージーランドでは、半径2キロ圏内で土や植物の移動を制限するなどの厳しい対策を3年間続け、定着を防いだ。日本でも、今後さらに巣が見つかるようなことになれば、同じような踏み込んだ措置を検討しなければならない。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら