(#withyou~きみとともに~)自分の道、たどりついて 漫画家・棚園正一さん

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 小中学校と不登校でした。学校に行かないとどうなるんだろうと不安で、なんだか「普通」から逸脱する感覚がありました。

 僕は漫画を描くのが好きで、「ドラゴンボール」を読んで漫画家の鳥山明先生の大ファンになりました。母親が鳥山先生と同級生だった縁で、自分が描いた絵を見てもらう機会があり、「うまいね」と褒めてもらえるのがうれしかった。人より劣っていると思っていた穴を埋めてもらった感じでした。そして「自分は漫画家として生きていく」と生きる目的ができました。

 でも実は、漫画に自分の人生をかけたことで、うまく漫画が描けないと「生きていくすべがなくなった」と絶望しました。漫画がなければ何もやっていない人間のように思え、「世界の役立たず」だと思い詰めた。そこはもろ刃の剣だったと思います。

 母にも迷惑をかけました。中学時代、「どうしたらいいんだ!」と叫んでテーブルをひっくり返したり、食器を投げて割ったりしました。

 同級生たちが高校3年のころ、大検(現在の高卒認定試験)のための予備校に通いました。そこには、勉強ができすぎて学校に通わなかった人、帰国子女……いろんな人がいました。「なんでここに来たの?」と聞かれて「不登校だったから」と答えても、「ふーん」といった感じで、みんな色々事情があるのが当たり前でした。

 そこで友達もできて、10人ぐらいで青森から北海道まで野宿の旅をしたり、天体観測をしたり。たわいもない雑談で盛り上がる日々が楽しかった。自分の心にあった「理想の学園生活」を満喫できたことで、学校に行っていないというコンプレックスもなくなり、人との出会いも楽しくなりました。

 学校に行ったら違う経験ができたかもしれないし、行っていないからこそできた経験もある。どっちが良いとか劣っているとかはないと思います。

 小さなことの積み重ねで、自分だけの道にたどりついていくのだと思います。(聞き手・貞国聖子)=おわり

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 たなぞの・しょういち 愛知県出身、37歳。漫画家。2015年、自身の不登校経験を描いた「学校へ行けない僕と9人の先生」(双葉社)を出版した。

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