ベトナムの「ドクちゃん」笑み減った 戦争被害者苦しめる健康とお金

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 軍事大国・米国が史上初めて敗北したベトナム戦争の終結から、4月末で49年となった。「歴史上のできごと」になりつつある一方、半世紀近く前の戦争の傷痕は今も、人々をなお苦しめている。

 ホーチミンに住むグエン・ドクさん(43)もそのひとり。下半身がつながった結合双生児として生まれた「ベトちゃん、ドクちゃん」の弟だ。米軍が戦時中に散布した、猛毒のダイオキシンを含む枯れ葉剤が原因とみられ、日本の支援を受けた1988年の分離手術は連日大きく報道された。

 そのドクさんが初めて、密着撮影によるドキュメンタリー映画に出演した。そのわけは、「自分のありのままの、真実の姿を伝えたいから」。ドクさん、そして、枯れ葉剤の被害をいち早く報じてドクさんを40年以上取材してきた報道写真家の中村梧郎さん(83)に詳しく聞いた。

 映画は「ドクちゃん ―フジとサクラにつなぐ愛―」。かねてドクさんを知るプロデューサーのリントン貴絵ルースさんが、クラウドファンディングで約540万円を集めるなどして、川畑耕平監督のもと、現地で撮影を重ねた。5月3日からの日本での順次公開に先立ち、ドクさんは4月に来日した。

 東京でのインタビュー場所にドクさんは、脇下の丈より高い松葉杖をついて、右足とともにこぐようにして現れた。両脇に体重をかけての歩行は負担が大きそうに見える。

 少年時代は左足部分に義足をつけ、サッカーにも興じていた。聞くと、「義足は重く、かえって不便で大変になってしまって」。街での移動は、三輪バイクを使っている。

 ドクさんは、比較的おとなしい雰囲気だった兄ベトさんに比べ、笑顔の多い快活な性格として報じられてきた。ところが、かつてのような笑顔は、ほとんど見られない。関係者によると、今回の来日全般に、そういう印象だったという。

 ドクさんに聞くと、「痛いんです」。

 一つしかない腎臓などに異常…

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