(社説)吉本社長会見 これでは旧弊を正せぬ

社説

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 問題と責任の所在を語らず、何を改革するかも明示しない。これが6千人のタレントを抱える芸能事務所のトップかとあぜんとした人が多かろう。

 吉本興業の岡本昭彦社長が記者会見した。所属の芸人13人が振り込め詐欺グループなどの宴会に出て金銭を受けた問題と、その対応について語った。

 この「闇営業」問題が報じられて約1カ月半。ようやく公の場で謝罪したものの、この間の会社としての動きはあまりに遅く、不透明だった。

 反社会的勢力絡みの不祥事は過去に繰り返され、その都度、改革したはずだった。なぜ今も浄化できていなかったのか。

 社長はコンプライアンスの徹底を強調し、今後すべての仕事を芸人から報告させるなどの対策を示した。だがそれで解決できるとは到底思えない。

 芸人らが危うい仕事にも走る背景には、不安定な立場と苦しい生活状況があるといわれる。その点で社長が会見で語った「芸人ファースト」が注目されたが、内容はあいまいだ。

 吉本興業は問題発覚後、関係芸人に対し契約解消や厳重注意をした。だが契約解消した一部芸人らが会見を開き、社長の言動が明るみに出ると唐突に撤回した。世間の批判をかわす急場しのぎにしか見えない。

 吉本興業は芸人と契約書を交わさない。ギャラの配分も不透明とされる。芸人らのモラルと同様に、会社側も構造問題に切り込まない限り、闇営業の土壌は改善できないだろう。

 この事態を受けても、社長も会長も辞任はせず、報酬5割減にとどめるという。ことの重大性がわかっていないのではないか。吉本興業はお笑い界をリードする存在であり、社会への影響が大きい分、責任も重い。

 企業統治を抜本的に改革するため、責任の所在をはっきりさせるとともに、第三者委員会を設けて「闇営業」問題の調査と行動計画をまとめることを真剣に検討するべきである。

 芸能界の作法は世間と違うと考えられた時代は、とうに去っている。芸能界全体が一般社会の規範に従う意識改革に努める契機にしなくてはならない。

 その意味で、ジャニーズ事務所をめぐる問題も重要だ。事務所から独立した元SMAPの3人を、テレビ出演させないよう圧力がかけられたとの話が取りざたされる。公正取引委員会は圧力があれば、独占禁止法違反の可能性があると注意した。

 吉本興業ホールディングスの株主である民放業界を含めメディア側も、芸能界の健全なあり方について考える時だろう。芸能界と社会との間に、モラルと常識の溝があってはならない。

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