(社説)かんぽ生命 顧客への重大な背信だ

社説

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 顧客に対する背信行為である。問題の根は深く、深刻に受け止めるべきだ。

 かんぽ生命で、不適切な保険販売が横行していた。全容の調査、公表とともに、経営体制や日本郵政グループのあり方を含めた点検を急ぐ必要がある。

 加入していた保険を解約して新しい保険に乗り換えようとした顧客が、旧契約後の病気を理由に新契約を結べなかったり、保険金が支払われなかったりする例が過去5年間で2万4千件あった。さらに保険料の二重払いを強いられた契約が3年弱で2万2千件あるなど、不適切販売が蔓延(まんえん)していた。

 現場の実態に合わない営業目標を掲げ、過剰なノルマや販売件数に応じた手当を設けていたことが、この事態を招いたと見られる。顧客に損をさせてまで実績を競わせるような手法は、金融商品の売り方として論外だ。販売を委託されていた日本郵便は国の信用を背景に、高齢者らに厚い顧客基盤を持つ。その信頼を大きく裏切った。

 10日の会見で、かんぽ生命と日本郵便の両社社長は顧客に不利益を与えたことを陳謝し、改善策を公表した。乗り換えの勧誘をやめ、営業目標を見直し、チェック機能の強化を図るという。無保険になった人には旧契約に準じて保険金を払い、二重払いの保険料は過剰分を払い戻す。いずれも当然の措置だ。

 だが、現場を荒廃させた経営の責任も問われるべきだ。

 6月下旬に問題が発覚した当初、かんぽ側は「不適切な販売ではない」と反論していた。顧客が内容確認書に署名していたからだという。広範な顧客に不利益を与えたことの重大さを、経営幹部を含めて認識していなかったと言わざるをえない。不適切な販売の実態についても、現時点では大まかな件数が示されているだけだ。

 保険営業は8月末まで自粛の方針で、第三者委員会も設けるというが、テーマは山積みだ。まず、不適切販売の全容とその原因の徹底究明が求められる。

 管理部門や経営陣の対応にも焦点をあてる必要がある。なぜ不適切販売が広がり、放置されてきたのか。現場の実態をどこまで把握できていたのか。かんぽ生命は4月に株式を売り出しており、その時点でこの問題をどう認識していたのかも、第三者の目で明らかにすべきだ。

 今回の事案は、かんぽ生命と日本郵便のはざまで生じており、日本郵政グループ全体の問題でもある。にもかかわらず、10日の会見に日本郵政トップの姿はなかった。政府は日本郵政の株式売却を年内にも予定している。グループとしての説明責任の大きさを自覚すべきだ。

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