第1回ふと人の気配、記者に放たれた銃弾 最後の目撃者、「なぜ」問い続け

有料記事銃口の記憶~目撃者の37年~

構成・田村隆昭 岸上渉
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 最初は、同僚の誰かのいたずらかと思った。

 職場で一仕事を終え、3人ですき焼きをつついた後、日曜日の午後8時15分。3人は応接セットのソファや安楽イスに座っている。窓際のテレビではNHKの大河ドラマ「独眼竜政宗」が流れ、リラックスした空気に包まれていた。

 ふと、人の気配を感じた矢先、視界に入ってきたのは突如現れた黒っぽい服装の目出し帽の男。腰だめの位置で、銃らしきものを構えているのが見えた。

 その瞬間――。

 「バーン!」

 閉めきっていた室内に轟音(ごうおん)が響き、耳が聞こえなくなった。撃たれた同僚の手からは血が噴き出し、倒れ込んだ。2発目の銃声は聞こえなかったが、もうひとりの同僚も、気づけばソファに顔を埋めてもたれ込むようにしながらうめき声を上げていた。

 目出し帽の男は、すぐにくるりと反転して出口へ。そのときに、銃口が一瞬自分のほうに向いたのが見えた。撃つそぶりは見せなかったものの、そのときの光景が、いまも目に焼き付いて離れない。

     ◇

 朝日新聞阪神支局(兵庫県西宮市)で1987年5月3日の憲法記念日の夜、散弾銃を持った男に記者2人が撃たれ、死傷した事件から間もなく37年を迎えます。「反日分子には極刑あるのみ」などとする声明文をメディアに送りつけた「赤報隊」が起こした一連の事件は、関連・類似事件を含め計8件ありましたが、いずれも未解決のまま公訴時効が成立しました。阪神支局襲撃事件では小尻知博記者(当時29)が死亡し、事件時に42歳だった犬飼兵衛記者も2018年に亡くなりました。阪神支局襲撃事件で存命の唯一の目撃者となった朝日新聞社員の高山顕治(62)が、振り返ります。

事件当日の一部始終を語る高山さんの証言を収録したポッドキャストが、記事の後半で聴けます。

     ◇

 「大丈夫ですか!」

 最初に撃たれた犬飼に駆け寄…

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連載銃口の記憶~目撃者の37年~(全2回)

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