定期テスト、やめました かわりに週3回の「積み重ねテスト」…生徒は賛否 都内の公立中で動き=訂正・おわびあり

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 中間・期末試験といった定期テストをやめる公立中学が出てきている。東京都では、昨春全廃した千代田区立麹町中学校に続き、世田谷区立桜丘中学校も今春から全廃を決めた。やめるとどうなるのか。改革途上の桜丘中を訪ねた。

 朝8時すぎ。桜丘中の3年生の教室に、次々と生徒が登校し、机の上にノートや問題集を広げて勉強を始める。汗をにじませ入ってきた子は「教えて、ヤバイ! これわかんない」と友達にノートを見せる。

 8時25分すぎ、担任が全員にテスト問題を配布した。朝の20分間の「積み重ねテスト」だ。この日は数学で、B4判1枚に五つの大問の20余の小問が並ぶ。

 同校では、以前から校則や授業時間のチャイムもなくし、教室に入りにくい子には職員室の廊下に勉強できる場を設け、読み書きの苦手な子にはタブレット端末の使用を認めるなど、子どもに合わせた柔軟な教育に挑戦してきた。今年度の新たな改革は、定期テスト廃止と、遅刻をカウントしないこと。

 「生徒にとっても教師にとっても、定期テストが通知票のためのものになってしまっていた。子どもたちの学ぶ意欲を引き出すのに、本当に役立っているのか疑問があった」と、西郷孝彦校長は言う。

 そこで毎日、授業前に「学習の時間」を新設。うち週3日程度は「積み重ねテスト」という単元テストを1教科実施し、定期テストに代わる評価に使うことにした。ただし、希望者は内容の違う同程度の「再テスト」を放課後などに受けられ、成績には良い方の点数が反映される。

 授業中の小テストは続ける一方で、入試への対応力もつけるため、民間業者による実力テストを年3~5回実施するが、この結果は通知票の成績には含めない形にした。

 「どこがわかって、どこがわからないのか。わからないことをわかるようにするには、自分はどういう学習方法がいいかを考えられる生徒になってほしいんです」と西郷校長は言う。

 ■反対「気を抜ける日がない」/歓迎「範囲、少しずつで済む」

 生徒の反応は、様々だ。

 3月、定期テストをなくすと聞き、泣き出した生徒がいた。中3になるのに、「成績が下がる」というのだ。近隣には、塾が複数ある。「中には過去の定期テスト問題を入手し、過去問やそっくりな問題を解かせる所がある。その直前対策で点数を取ってきた生徒には不安があるようだ」と学校側はみる。

 別の中2の生徒は「だまされた。テストがなくなると喜んだのに、毎日のようにテストがあるから、前より勉強が大変」。ただ、「勉強を毎日やるしかないし、結果的にはサイクルができていいかもと最近は思い始めた」と話す。

 尋ねてみると、中3、中2では、現在の方法を歓迎する子がやや多い印象だ。「定期テストみたいに一気に大量な範囲をやるのは大変。こっちの方が少しずつで済む」「習ってすぐの内容だから忘れない。」……。

 一方で、定期テストの方が良かったという生徒は「毎日がテスト勉強になっていて、大変」「気を抜ける日がない」などの理由が目立った。

 ■挫折感増す子も

 発展問題に挑戦する機会がなくならないよう、「もっと力を試したい」という生徒には授業でプリントを渡す教師もいる。ある教師は「できる生徒にも、できない生徒にも良い方法だと思う。毎日勉強する習慣がついて学力は確実に上がる」とみる。一方で、「テスト返却の回数だけ挫折感を味わう回数が増えた生徒もいるので、再テスト以外のフォローも考えなければ」と話す。

 週3回の積み重ねテスト、再テスト、小テスト……。保護者からは、テストが多すぎて、わかりにくくなったという声があがる。また、再テストは本人の希望に任せられるため、9割取れても満点をめざして再テストを受ける生徒もいれば、7割で満足して再テストを受けない生徒もいる。

 ある中3生の保護者は「うちは、今の方法の方が毎日少しずつ勉強していい。でも、周囲の反応はそれぞれ。高校受験もあるので、中学生だから勉強は本人に任せて……と言えない気持ちもわかる」。

 教師側も意見が分かれる。「テストの回数が増え、日常業務や行事をしながら作問や採点もあって、負担が大きい」という声は強い。一方で、「定期テストほど範囲も広くないので、作問は簡単。できていない生徒にすぐ対応できるので、生徒のためにはいい」という教師もいる。

 西郷校長は「まだ改革途上なので、良くない部分は変えていく。成績のためのテストではなく、自分のできないことをできるためのテストに変えたい」と話す。

 ■実施の義務なし

 文部科学省によれば、定期テストを実施しなければならないという決まりはない。担当課は「学習指導要領に評価の方法の工夫を求める記述があるように、むしろ目標に準じた評価方法を現場で工夫してほしい」と話す。

 昨春から定期テストを全廃した千代田区立麹町中学校も、単元テストを実施しており、教科によっては複数回、再テストをしている。宿題やノート提出もなくし、教員の負担軽減のためにテスト採点にはAIの導入も検討中という。

 工藤勇一校長は、「履修主義から習得主義へすべきだ。強いられて勉強をどれだけの量したかではなく、自分の学び方を見つけて何をどう習得するかを考えてほしい。その結果、全員、通知票が5ならそれでもいい。定期テスト廃止は、学習者主体の学校に変える改革の一つでしかない」と話す。宮坂麻子

 <訂正して、おわびします>

 ▼1日付教育面「定期テストやめました」の記事で、「B4版」とあるのは、「B4判」の誤りでした。入力を誤りました。

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