(社説)研究力の低迷 若手に安定と自立を

社説

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 先ごろ閣議決定された科学技術白書は、科学の基本原理や真理を探る「基礎研究」の重要性を訴える、ノーベル賞受賞者たちの発言の紹介から始まる。

 田中耕一(02年化学賞)、梶田隆章(15年物理学賞)、大隅良典(16年医学生理学賞)、本庶佑(ほんじょたすく)(18年同)の各氏だ。

 例えば大隅氏は、政府の助成が産業や医療への応用研究に偏っているのを「とても危惧している」と批判。他の3氏の指摘とあわせ、日本の現状に警鐘を鳴らす内容になっている。

 その「現状」はこうだ。

 国際的に注目される論文の数は減る一方で、新たな研究領域への参画も外国に比べて見劣りがする。研究にあてられる時間は限られ、将来を担う人材は先細り傾向にある――。

 かねて心配されたことで、近年の白書も危機感を表明してきた。しかし状況はむしろ悪化している。認識を正しく政策に反映させ、負の連鎖にくさびを打ち込まなければならない。

 急ぐべきは、国籍を問わず若手が腰をすえて研究に向き合える環境を整えることだ。

 博士課程を終えて大学や研究機関に就職する人を調べると、約60%が任期付きの採用で、その4割超は2年以下の条件で雇われている。30代後半でも任期付きの身分で働いている人の方が多いというデータもある。

 次のポストを得るには在任中に結果を出さねばならず、独創的なテーマに挑戦しづらいとの声がもっぱらだ。身分の不安定は、帰国後の就職が難しいという理由で留学をためらう要因にもなる。世界の科学者のコミュニティーの中で経験を積むことが飛躍につながるのに、現実は逆をゆく。学生が研究者の道に二の足を踏むのも無理はない。

 文部科学省は今年度から若手の任期を「原則5年程度以上」とすることを目標に、研究環境の改善に乗り出す。方向性は良いが、このような事態に至った背景には、大学への交付金を減らす一方で、3~5年ほどで打ち切られる競争的な研究費を増やしてきた政府自身の政策がある。ここにメスを入れないと、解決は望めない。

 「風土」の改革も必要だ。

 助教、准教授になれば、自らのテーマに取り組むのが本来の姿だ。だが日本では教授が差配する面が強いとの指摘がある。チーム研究の利点は否定しないが、若手の意欲と自立が阻害されてしまっては発展はない。

 若い人材を便利に使い回していては、疲弊し、枯渇する。その認識をもって施策や予算を点検して、見直すべき点をすみやかに見直さなければならない。先達4人の苦言に、真摯(しんし)に耳を傾けるときだ。

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