春キャベツ出荷量日本一の千葉・銚子 始まりは「上野の焼きそば」

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大村美香

 スーパーの店頭をのぞくと、色とりどりの食べ物が並んでいます。今日は何を食べよう? おいしいものはどれ? 手にとった、その食べ物は誰がどのようにして生み出しているのでしょうか。作る人と食べる人の距離が遠くなって、分かりにくくなった今だから、生産現場を訪ねてみようと思います。季節は春、まずは旬のキャベツ畑へ。

 千葉県銚子市、太平洋に突き出た犬吠埼にほど近いキャベツ畑。大きな外葉に囲まれて、キャベツが内側へと葉を丸め、球形を形作る。朝の光で陰影が深く、彫刻がずらりと並んでいるかのようにも見える。

 ザクッ。包丁を根元に当てて切り取り、外葉をはらい落とし、段ボールに詰めていく。訪れたのは2月末だが、すでに収穫が始まっていた。「本来、3月半ばからの予定だったけれど、10日から15日早まっている。こんなに早いのは例がない」と、畑の主の宮内隆昌さん(63)が話す。

 昨秋から温度の高い日が続き、どんどん育った。「普段なら寒さでいったん成長が止まるが、葉が次々と出て、結球が始まった。畑で生育の調整はできないから」

 銚子市は日本有数のキャベツ産地。JAちばみどりによると、約440戸の農家が1500ヘクタールで栽培している。中でも4月から6月のキャベツ出荷量は日本一を誇る。

 1玉をスパッと縦に切ると、中は黄色い。「これが春キャベツの何よりの特徴。冬キャベツは中まで葉が白い。品種が違うんだ」と宮内さん。この畑に植えているのは、「金系201号」。もう一つ「金春」と合わせ、この2品種が春の定番。50~60年の歴史ある品種だが、葉の軟らかさも断トツで、他に代わる品種はないという。

 寒玉と呼ばれる冬のキャベツは葉が堅くしっかりと巻き、加熱した食べ方に向く。これに対し、春キャベツは巻きが緩く、水分が多めで生食向き。その分、長い保存はできない。「なるべく早く食べるのがおいしい」。

 店頭で芯の切り口が乾いたり黒くなったりしているものは時間が経ってしまっている。葉の色が鮮やかでピンとしており、フワフワッと軽やかに葉が巻いているのを選ぶといいという。

 今期は生育良好で豊作の見込み。だが、高温傾向は病虫害の拡大にもつながりかねない。生産者でつくる銚子野菜連合会キャベツ委員長の田村正徳さん(63)は「昨年の猛暑と乾燥では害虫が大発生。収穫できず、キャベツをそのままトラクターで耕し畑に戻した人もいた」と振り返る。

 通常なら発生が10月までで終わるはずのキャベツの病気が11、12月まで続く現象も。「今までにこんなことはなかったんだが」。栽培が難しくなっている。

 銚子でキャベツ栽培が始まったのは、1953(昭和28)年。始まりにあたっての逸話が伝わっている。

 ある農家が東京へ行き、上野…

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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2024年5月4日15時48分 投稿
    【視点】

    こんな句も。 春昼(しゅんちゅう)やキャベツ一枚づつ剥(は)がし  鈴木真砂女 春に出回るキャベツは冬のキャベツに比べて巻きが緩く、水分を多く含んでいてやわらかい。そんな春のキャベツを一枚ずつ丁寧にはがすのんびりとした時間を詠んだ作だ。

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