(親の体罰、なくすには:下)「しつけ」の目標、長い目で 講座体験、「ペチン」を反省

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 「子どもが口で言ってもきかない時、どうすればいいの?」。親が「しつけ」で子どもに体罰をすることを禁止する法案が成立する見通しとの報道を受け、そんな相談が読者から寄せられました。記者も子どもをついたたいてしまうことがあります。エッセイストの犬山紙子さんら子育てに悩む面々に参加を呼びかけて、「たたかない、怒鳴らない」子育て講座を受けてみました。

 5月中旬、朝日新聞大阪本社の会議室に、ともに2歳の娘がいる犬山さんと朝日放送テレビアナウンサーの喜多ゆかりさん、3人の記者、一般の父母ら計10人が集まった。「罰を与えなくても、しつけはできる」。講師の森郁子さんが話し始めた。「ポジティブ・ディシプリン」という国際NGO「セーブ・ザ・チルドレン」の子育て講座だ。

 ■イライラの理由

 森さんがお題を出した。「いつもの朝。子が学校や園などに行く支度中だが、出かける時間はどんどん迫る。あなたが子どもに今すぐして欲しいことは?」。犬山さんは「保育園に行くためにベビーカーに乗って欲しいけれど『三輪車に乗る』という日もある」と発言。森さんは「日常で親が子にして欲しいことの多くは短期目標。これで親はイライラしがち」。

 森さんは「成人まで20年がかりの『一大プロジェクト』である子育てを何のためにするか。長期目標の確認を」と呼びかけ、「子が20歳になった時、どんな人になって欲しいか」を書くことになった。7歳児と6歳児を「ワンオペ」で育てる記者は「人の気持ちを想像できる人」と書いた。「長期目標を見据え、日々の積み重ねで何ができるのかが親に問われている」と森さんは話す。

 記者は前日、スーパーで「菓子を買って」「ダメ」で長女(6)と口論に。菓子を元あった場所ではない棚に投げて返した娘の手をペチン。「人の気持ちを想像できる」が目標なのに、「相手が言うことをきかなかったら暴力で解決していい、と娘に教えたことになるのか」と感じた。

 しつけは、「子どもが安心・安全を感じられる」状況で、「スーパーの元の棚にお菓子を投げずに戻してきてください」などと具体的に伝えるほうが「学習しやすい」と森さんは言う。

 ■子の気質知って

 また、子の発達の段階を知ることも大切という。3歳児が店で地団太を踏むのはよくあることと知れば、「この子は悪い子?」「私は親失格?」などと思い込まずに済むという。

 さらに、「兄は小さい時こうだったのに、妹は違うとの経験は?」と森さん。人には「生まれ持った気質」があり、「いい悪いはなく、変えられもしない」という。活動性、順応性、持続性、感情の強さ、規則性など7項目で、自分と子の気質の同じ点、違う点を参加者が探った。「ハッとした」というのは喜多さん。活動的な自分に対し、長女はじっくりタイプ。「『いつまでやっているの!』と怒る時があったが、この子はそういう気質なんだと思うことで、少し冷静になれそう」

 ■肩に力入れずに

 講座終了後、喜多さんは「子育てでピンチの時、ポジティブ・ディシプリンという引き出しを思い出せば少し安心できる。肩に力を入れすぎず、楽しんで子育てをしたい」と笑顔を見せた。犬山さんは「体罰はいけないと思っていても、親や義父母など上の世代から『そういう時はたたきなさい』と言われて、自信を失う人もいる。いろんな世代に体罰の悪影響を知って欲しい」と話した。(山根久美子、松尾由紀、高橋大作)

 ■親支える仕組みの強化を

 体罰禁止の法案が成立すれば、国は体罰の具体例をガイドラインで示したり、体罰によらない子育てを啓発したりする方針だ。安梅勅江(あんめときえ)・筑波大教授(発達保健学)に、体罰をなくすために必要なことを聞いた。

 親もストレスがたまるので、親を支える社会の仕組みが必要だという。2014年に他の研究者らと、保育園児の保護者約1800人を調査した。園側が「虐待の疑いがある」とした保護者は、そうではない保護者に比べ、「園以外に子の面倒をみてくれる人がいない」との割合や、「不安や恐怖感に襲われる」という育児不安を抱える割合が5倍近い、という結果が出た。

 体罰をなくすには、親に相談相手がいたり、いざという時に支えてくれる人がいたりすることが大切だという。安梅教授は、子育て支援センターを充実したり、そういった場が苦手な親でも電話やLINEで子育て相談ができるようにしたりするなど、国や自治体が様々な支援策を強化する必要があると指摘している。長富由希子

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