モラハラ=心への暴力、見えない支配 無視や嫌み…話し合えない夫=訂正・おわびあり

[PR]

 常に上から目線で、話し合いにならない。いきなり無視する――。配偶者など親密な関係の間で起きる暴力(DV)の中で、「モラルハラスメント」(モラハラ)と呼ばれる精神的な暴力に悩む人がいます。身体的な暴力のようにけがなどの被害が見えず、離婚時の争いでも証明が困難な例も。被害者は、「深刻さを理解して」と訴えます。

 ■「私が悪い」自分責めうつ病に

 就寝中、大きな音を立てて冷蔵庫を開閉する夫。我慢の末に「気になる」と伝えると、「しょうがない」。意見を伝えたときは、「自分だって」と不満を言い募る。都合が悪いときは無視する。

 「この3パターンしかなく、話し合いにならなかった」。北九州市の女性(43)は、5年前に別居した夫との生活をそう振り返る。

 矛盾した言動もあった。

 夫は「何でも買っていいよ」と言うのに、ジュースをかごに入れた女性に対し、「そんなん、誰が買っていいって言った?」「それ、いつ飲むん?」と繰り返し嫌みを言ってくる。サラダを買おうとすると、「それは俺の中ではサラダじゃない」と言う。

 夫は毎朝、海鮮丼か刺し身しか食べないという偏食で、食事や買い物が苦痛になった。毎月の生活費もなかなか渡してくれず、「ジュース1本も自由に買えない生活。みじめだった」と女性は言う。

 生活面にも、細かいルールがあった。茶わんによそうご飯の量は、「一口少ない」「二口多い」と指示。冷蔵庫は毎日チェックし、「お米が早くなくなる」、調味料が「なかなか減らん」などと必ず言った。常に自分が正しく、指摘しても、「勘違いしとんやない?」と言われてしまう。

 「わけの分からないことが24時間365日続き、頭の中が支配されていた。私の感じ方が悪いのかと、自分を責めるようになった」。限界を感じて家を出た後、妊娠が分かった。

 夫は泣いて謝罪し、いったん家に戻ったが、態度は変わらず……。その繰り返しだった。2014年、「しばらく距離を置こう」と、当時1歳の息子を連れて別居。心療内科に通い始め、女性は「うつ病」と診断された。

 離婚を夫からつきつけられ、決意した。調停や裁判で、夫は子どもとの面会交流を求めてきた。息子には発達障害がある。これまでの夫の言動を考えると、配慮できると思えなかった。だが、家庭裁判所の調査官との面談を経て、家裁は面会交流を命じた。

 面会交流などに納得できず、争いが続いた。今年3月、女性が親権者に決まり、面会交流は「母の積極的な努力が望まれる」と緩やかな表現になった。だが、裁判所はモラハラによる結婚の破綻(はたん)と評価しなかった。女性の代理人の後藤景子弁護士は、「モラハラの加害と被害の構造をはっきり認めてほしかった」と話す。

 ■ストレスで体に不調も、まず相談を

 共著「『モラル・ハラスメント』のすべて」などがあり、武蔵野大学非常勤講師臨床心理士本田りえさんによると、モラハラは「言葉や態度によって、巧妙に人の心を傷つける精神的な暴力」を指す。

 加害者は共感性が低く、相手を責めたて心理的に追い詰める。大事なことを相談しても、「自分で決めろ」と言っておきながら、相手が決めたことには文句をつけるような「二重拘束」も特徴だ。自己愛が強く、相手の長所をおとしめて自信をなくさせ、自分が上に立つようにふるまう。人を信用していないため、「人は利用価値で決まる」と思っているのも特徴の一つだ。

 モラハラの本質は、恐怖による「支配と服従の関係」だ。配偶者に加害者の特徴が当てはまっても、自分が言いたいことが言えて、相手が受け入れる対等な関係なら、モラハラではない。「子どものことよりも、夫が怒るかどうかが判断基準になっていることに気づき、モラハラを自覚した人もいる」と本田さん。長期的なストレスで、メンタルの不調だけでなく、持病がひどくなるなど、身体症状が出ることも多い。被害者に見られる特徴的な反応があるかどうかが、目安になる。

 モラハラだと気づいたとき、どうすればいいのか。「加害者を自分で変えるのは難しい」。加害者と離れるかどうかについては、「深刻度や状況にもよる。味方になってくれる人や、専門家に相談してほしい」という。全国に約300カ所ある「配偶者暴力相談支援センター」は、DV全般に対応している。

 本田さんは、「民間団体などが提供している加害者更生プログラムは効果があるという英国の研究もあり、選択肢の一つ」としたうえで、「効果があるかどうかは、加害者が『家庭を取り戻したい』と真剣に考えて自分の問題と向き合えるかどうかが分かれ目」と注意を促す。

 離婚や別居後の子どもとの面会交流については、「家裁の調査官が、子どもの成育環境への影響を見極めることが必要」と話す。「DV加害者は自分を正当化しがちだ。その結果、被害者が悪者とされ、子どもが混乱して不安定になることもある。面会交流が『子どもの健やかな成長』に貢献するかどうかが最も重要だ」と指摘する。

 (杉原里美)

 <訂正して、おわびします>

 ▼23日付生活面の「モラハラ=心への暴力」の記事で、「家庭裁判所の調査官は面会交流を命じた」とあるのは「家庭裁判所の調査官との面談を経て、家裁は面会交流を命じた」の誤りでした。

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら