困難抱える子どもたち、馬で元気に 南部曲がり家での活動、全国大賞

東野真和
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 岩手県釜石市の黍原(きびはら)豊さん(47)が馬屋と母屋が一体の伝統的家屋「南部曲がり家」で続ける「ホースセラピー」の活動が今春、全国の自然活動家を表彰する「ジャパン・アウトドア・リーダーズ・アワード(JOLA)」で大賞を受賞した。活動開始から10年。障害やストレスなどで困難な状況にある子どもたちを中心に、連日多くの人たちをいやしている。

 黍原さんは、愛知県瀬戸市出身。岩手大を卒業後、岩手県葛巻町の自然体験NPOを経て、2013年、東日本大震災からの復興を支援する「釜援隊」の1人として、妻の里枝さん(50)の故郷・釜石市に移った。

 翌14年、馬を通じて精神や運動の機能を向上させ、教育にも生かすホースセラピーの草分け的存在・寄田勝彦さんの話を聞いた。仮設住宅などで開いた馬とのふれあい体験の場を企画してみると、子どもたちの顔が生き生きしているのを見たのが、今の活動の原点になった。

 15年4月、寄田さんと一般社団法人「三陸駒舎」を設立。黍原さんは、当時で築90年以上の南部曲がり家を改修し、里枝さんや長女と暮らし始め、翌16年から馬2頭を飼って子どもたちを迎え入れ始めた。

 最初の2年は里枝さんが外で働いた収入で生活していたが、だんだんと利用者が増加。現在は50人ほどが登録し、月に延べ200人以上が県内から訪れる。馬は3頭になり、主に県外から移住した職員5人で運営している。利用者は小中学生がほとんどで、発達障害を抱えていたり、不登校だったりする子どもたちも多い。

 効果は表れている。自閉症と診断された小学生の男子が馬に乗ったり、えさをあげたりすることで「負の方向に向いていたエネルギーが正に転じて」(黍原さん)、友達と遊べるようになったという。

 学校に通うのが苦手だった中学生の女子は、馬を引くのがうまくなると馬の歩き方も堂々としてくるのを見て自信が生まれ、登校するようになった。黍原さんは「世話をすることで、自分も役に立っているんだと自己肯定感が増す」と話す。

 また、身体障害がある人が乗馬で体幹を鍛えたり、落ち着きのない子が多くの刺激を得ることで心が安定したりするという。「馬は人の心を感じ取って反応をする。大人でも自分の隠れた弱みを知ったり、癒やされたりする」ことから、研修者も受け入れている。

 今年3月、プロスキーヤーの三浦雄一郎さんら野外活動に携わる人たちがアドバイザーに名を連ねるJOLAが「人間の土台作りに軸を置いている姿勢や考え方」を評価し、今年の大賞に選んだ。22日、黍原さんが表敬訪問した釜石市の小野共市長は「ICT(情報通信技術)やAI(人工知能)が発達する社会を補完する人類にとって大きな仕事。認めてもらってよかった」と受賞を祝った。

 黍原さんは、子どもの数が減っているのに、ここを訪れる子どもが増えているのが気になる。「社会全体に余裕がなくなっている。周辺の自然を楽しむ活動も合わせ、親子で参加し、学校や地域ぐるみで活用しては」と呼びかける。

 27日からは6日間、能登半島地震の被災地に友人とボランティアに行く。馬や自然を生かした支援ができるかどうか考えるという。東野真和

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