ロシア大統領選、自民党派閥、テイラー・スウィフト…いま注目の論考

[PR]

 朝日新聞には毎月、雑誌やネットで公開される注目の論考を紹介する「論壇時評」という欄があります。時評を執筆する宇野重規さんと6人の論壇委員は月に1回、注目の論考や時事問題について意見を交わします。各分野の一線で活躍する論壇委員が薦める論考を紹介します。(「*」はデジタル)

青井未帆=憲法

▷金井利之「分権型社会への遠い途(みち)」(世界5月号)

〈評〉国と自治体の関係を対等にする分権型社会をめざした第一次分権改革から四半世紀が経ち、改革の到達点と限界を指摘する。係争処理制度が創設され、国と自治体の係争は公然の法的裁断の世界に置かれたが、法令を制定できる国が有利なゆがんだ土壌だった。

 分権改革は道半ばであり、自治体は資源も法的権限も不足している。分権型社会への途は、自治体や地域住民の創意工夫や自治実践の蓄積の上にしか存在しない。国への陳情主義から脱却するために、自治体は「分権改革要求」という名の陳情を繰り返すとの指摘は興味深い。

▷石神圭子「いまさら『アメリカの民主主義』を?『変わらないアメリカ』を?」(世界5月号)

▷五味渕典嗣「国語教科書の中の『戦争』」(現代思想4月号)

板橋拓己=国際・歴史

▷大串敦「プーチン再選と個人支配のゆくえ」(世界5月号)

〈評〉3月のロシア大統領選挙は選挙の公平性が疑われる中でプーチン氏の圧勝に終わった。しかし、たとえ公正な選挙が行われたとしても優に勝利したとされる。なぜ人々はプーチン氏を支持するのかが分析されている。

 興味深いのは、メディアの統制やプロパガンダによってプーチン氏の支持が支えられているという説に、著者が懐疑的なことだ。ロシア国民はその気になれば西側の報道にごく簡単に接することができるという。洗脳されているのではなく、結局は「見たいものだけを見る」という状況なのかもしれない。

▷大野泉・神保謙・石月英雄「『包摂性』と『多様性』で世界の分断を乗り越えよ」(外交3・4月号)

▷牧野久美子「南アフリカ 経済外交と『非同盟』の論理」(外交3・4月号)

金森有子=環境・科学

▷土屋正史「大量のマイクロプラスチックが深海堆積(たいせき)物にあった!」(科学4月号)

〈評〉海洋プラスチックごみ汚染問題について、海洋研究開発機構(JAMSTEC)による調査の最新の知見が紹介されている。沿岸に近い相模湾深海よりも沖合の深海平原に、マイクロプラスチックと呼ばれる微小な粒子が大量に存在することがわかった。どのように海底に到達したのかについて、異なる経路があると推察されている。

 過去排出されたプラスチックごみによる汚染が、今後長い時間をかけて私たちの生活に影響を及ぼす可能性も指摘されている。今後の研究の展開に期待したい。

▷ダラ・オルーク「米上場企業の気候リスク開示規則、ロビー活動骨抜きに」(MITテクノロジーレビュー、4月8日)*

▷青木慎一「オッペンハイマー その知られざる素顔」(日経サイエンス5月号)

砂原庸介=政治・地方自治

待鳥聡史・河野有理「派閥解消で政治が改まるという幻想」(中央公論5月号)

〈評〉裏金問題で派閥の責任がクローズアップされている。選挙制度改革の後で派閥の機能は相当弱まっていたが、完全になくなっていたわけではない。この対談では、そもそも派閥と政党を明確に区別すること自体が難しいことを踏まえて、場当たり的な理解ではなく、一貫した立場から政党や派閥についての見方を提供している。とりわけ、派閥による「疑似政権交代」が、実質的に社会の多元性の受け皿となることはもはや難しいのではないかという指摘は重要である。自民党は「地方で強い」ことが強調される一方で、その派閥がそれぞれに地方の利益をまとめて、全国レベルで代表しているわけではない。

▷竹信三恵子「女性の過労死はなぜ見えないのか」(世界5月号)

▷馬渕俊介「グローバルヘルスは生まれ変わるか」(Voice5月号)

中室牧子=経済・教育

▷森悠子「最低賃金の引き上げは格差の縮小に貢献するのか?」(経済セミナー4・5月号)

〈評〉物価の上昇を上回る賃金の上昇が達成できるかがデフレ脱却の鍵だ。しかし、最低賃金の引き上げをめぐっては、雇用への影響だけでなく、格差や貧困への影響など様々な議論がある。最低賃金を引き上げた結果、雇用への影響がほとんどないにもかかわらず、低所得層の生活水準を引き上げたり、比較的所得の高い労働者にも波及効果があったりすることが、海外のいくつかの研究から確認されていることは興味深い。最低賃金の上昇によって、生産性が高い企業が雇用を増やし、労働者が生産性の高い企業に移動したことで雇用への影響が限定的だったとみられる。

▷中山一世「ワクチン優先接種対象者は自治体への『信頼』が向上」(週刊東洋経済4月13日号)

▷木村幹「尹錫悦政権のポピュリズム(Voice5月号)

安田峰俊=現代社会・アジア

▷辰巳JUNK「テイラー・スウィフトは救世主なのか」(中央公論5月号)

〈評〉若者に大人気の歌手テイラー・スウィフト。だが、芸能人にリベラルさが求められる米国では、ときに民主党支持の意見表明をしないだけで、潜在的な差別主義者として批判されかねない。カントリー歌手出身ゆえ共和党支持者のファンも抱える彼女は、本来はリベラルな若者と保守的な高齢者の橋渡し役になれる存在だが、むしろ困難に直面している。11月の米大統領選挙に向けて彼女が巻き込まれた騒動から、アメリカ社会の息苦しさを描く視点は面白い。

▷アルフ・ベン「イスラエルの自滅を回避するには」(フォーリン・アフェアーズ・リポート日本版4月号)

▷李昊「習近平は第二の毛沢東か」(中央公論5月号)

有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。

【締め切り迫る】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら