藤井聡太が駆け上がった6年間 名人挑戦への道、順位戦プレーバック

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村上耕司 佐藤圭司 村瀬信也

藤井聡太のいる時代を、将棋界の歴史として刻む。初参加からわずか6年、藤井聡太は順位戦を驚くほどの早さで駆け上がり、頂点に立つ名人への挑戦権を手にした。いきなりの快進撃、師弟同時昇級なるか、そして記録を阻む「鬼」……。担当記者が間近で見てきた、順位戦の記録。(敬称略、肩書・段位は当時)

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 名人への道のりは長い。挑戦者になるには、5階級ある順位戦(リーグ戦)を1年に一つずつ昇り、頂点のA級で優勝しなければならない。第11回朝日杯将棋オープン戦の準々決勝で佐藤天彦名人に完勝した藤井聡太七段は、順位戦では名人への第一関門である最下級のC級2組を戦っていた。

C級2組 2017年度

藤井聡太が順位戦に参加したのは2017年度。C級2組で開幕からいきなり8連勝し、昇級のかかる9回戦であたったのは梶浦宏孝だった。

 全階級で最も多い50人が年間各10戦し、3人だけがC級1組に昇級できる。同星だと前年度の成績に基づく順位が優先されるため、初参加で45位の藤井は1敗でも命取りになる。だが、藤井は開幕から8連勝し、2018年2月1日、梶浦宏孝との9回戦に臨んだ。

 対局は居飛車同士の「相懸かり」という戦型から本格的な戦いに突入。梶浦は終盤の大詰めで金取りに歩を打った。放置すれば金が取られて王手になるため、相手は歩を取るかかわすか、通常は応対が必要だ。ところが藤井はそこで攻めの手を選び、金を取らせた。

 「手抜いたんですか!」。検討室の若手棋士から驚きの声があがった。続く最終盤でも銀取りを放置して攻め、「肉を切らせて骨を断つ」ような手順で一気に勝利を収め、最短の勝ちをめざす藤井将棋を印象づけた。終局後、梶浦は「予想していない手でこられて、斬られてしまった」。ネット中継で解説していた森内俊之も「見事としか言いようがない」と感嘆した。

 藤井は最終戦を残して昇級を決め、五段に昇段した。初参加での昇級は、名人5期以上の「永世名人」でも中原誠十六世名人だけ。谷川浩司羽生善治は2期、森内は3期かかった。しかも中学生として初の快挙だった。だが藤井は淡々と言った。「昇級をめざして1年間戦ってきたので、果たせたのはうれしく思います」村上耕司

C級1組 2018年度

順位戦初参加ですぐに昇級。C級1組は師匠の杉本昌隆が在籍するクラスでもある。ともに8勝0敗の首位タイで迎えた10回戦、杉本が和服で臨んだのには理由があった。

 「今日いらっしゃっている方は藤井七段を応援していると思いますけど、次回の順位戦、本当に応援すべきなのは誰なのか……。彼(藤井)は応援しなくても強いですからね。もう1人の棋士も応援していただけたらうれしいかなと思います」

 2019年1月26日。藤井…

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