「曖昧で残念」「切り取りでは」河瀬直美氏の東大祝辞に賛否二分:コメントプラス

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 朝日新聞デジタルの「コメントプラス」は、記事に続けて、専門知識を持つコメンテーターのコメントを読むことができるサービスです。総勢約100人。コメントは記事の見出し横にある吹き出しマークが目印です。最近のコメントの中身を一部紹介します。

▽東大で入学式 来賓の河瀬直美氏 「ロシアを悪者にすることは簡単」(12日配信)

 (https://www.asahi.com/articles/ASQ4D3RZ0Q4CUTIL04Z.html

 入学式があった日の午前中に速報され、注目を集めたこの記事。夕方になって朝日新聞の増谷文生論説委員が「河瀬直美監督の祝辞、記事では短くしか引用できなかったようなので、もう少し詳しく転記させていただきます」とコメントしました。続けて5人のコメンテーターが思いを投稿しています。

 ※河瀬さんによる東京大学学部入学式の祝辞はこちら(同大ホームページ)

(https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/b_message2022_03.html)

 教育ジャーナリストおおたとしまささんは「切り取られると賛否を呼びそうな河瀬氏の発言ですが、増谷記者のコメントで意図がフォローされています」とコメント。「今回の件は、ロシアが『悪い』し、プーチンが『悪い』と私も思います。『ロシアが悪い』『プーチンが悪い』と決めてしまえば、それ以上考えなくていいので、楽になります。でもそれは思考停止です」とした上で、「いまの『構造』がそのままなら、どのみちプーチンがいなくても、ロシアでなくても、誰かがプーチンになって、どこかの国がロシアの役回りを演じていたはず」「『構造』を変えないと、『悪』は生まれる。『悪』になってしまったものを批判するだけでは『構造』は変えられないと、河瀬さんは言っているのだと思います」と読み解きました。

 キャスターの長野智子さんは「こういうケースで記事のさらなる補足を読めることもコメントプラスの利点」としつつ、「センシティブなテーマについて、スピーチ内容の詳細を報じず切り取りのようなタイトルを付けると、SNSでは異なる受け止め方をする読者も多くなるのではないでしょうか」と指摘しました。

 一方、弁護士の菅野志桜里さんは祝辞の全文を読んだとした上で、「若者に向けた『日本的曖昧(あいまい)のすゝめ』というような内容の祝辞で、とても残念でした」と異なる視点からコメント。「本当に『ロシアを悪者にすることは簡単』なのでしょうか?むしろ、『喧嘩(けんか)両成敗』的思考に逃げ込んで、自分の立ち位置を曖昧にしておく方が簡単なのではないでしょうか?」と批評し、「中立曖昧な言論は、ときに、正義を相対化し、戦争犯罪者を助け、無辜(むこ)の市民を傷つける役割を担うことがあります。中立的な言論の拡散は、嘘(うそ)の情報の流布よりも、真実を真実と認識する人々にソフトに深い揺らぎを与え、はからずもフェイクニュースの片棒を担ぐことにもなりえます」と訴えました。

 東京大学先端科学技術研究センター教授の牧原出さんは祝辞の前半部分に河瀬さんの映画監督らしい新鮮な感覚が宿っていたとし、「おそらく新入生もそこには心をうごかされたのではないでしょうか」と評しました。後半のウクライナ関係の発言については「政治学から見ればナイーブに過ぎるでしょう。みずみずしさが社会問題を話題にするとかえって徒(あだ)になるということ、ある筋で話すと突然ズレて『へたった議論』となってしまうことは、学生にときどき見られるところでもあるでしょう」と指摘しました。続けて「新入生が学ぶべきは、大学が呼んだ来賓だからといってすべて正当なことを言うわけでないということです。式辞であれ何であれ、突き放して批判の俎上(そじょう)に載せてみること、それを周囲と議論し合うことこそが大学らしさです。高校までとは違う大学の自由とはそこにあります」とコメントしました。牧原さんは新入生たちも参加するゼミでこうした話をするそうです。そこでは、朝日新聞の記事についても「引用がどのような問題を誘発したか考える設例となっています」と例示し、学生たちに問いを投げかけるとしています。

 さらに、ジャーナリストの中野円佳さんは、東大総長の式辞にも注目。「単なる自己利益の追求にとどまらない起業精神の話から入り、『ケア』という領域の価値が低く見積もられている問題について言及したうえでグローバルシチズンになっていってほしいという問題意識と期待が語られていたと思います」と評価しています。

 ※東京大学の藤井輝夫総長による学部入学式の式辞はこちら(同大ホームページ)

(https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/about/president/b_message2022_01.html)

「女性・若者・地方を見下し、笑いの対象に」

吉野家元常務の「暴言」は一発レッド 「炎上CM」著者が発言を分析(20日配信)

 (https://www.asahi.com/articles/ASQ4M6DYYQ4MUTIL03Z.html

 この記事には、SDGsジャパン理事の長島美紀さんがコメントしました。長島さんは「『生娘』『シャブ漬け』『田舎』『右も左もわからない』、時代劇か小説くらいでしか目にすることがないような言葉が大学で行われた講座での発言だとすると、記事のタイトルではありませんが一発でレッドカードです」と記事中の批判に同意しました。続けて「今回の発言の背景に女性や地方を見下す眼差し(まなざし)があったことは勿論(もちろん)ですが、さらに『弱い』『劣った』存在と(発言者が)みなす『女性・若者・地方』を笑いや冗談の対象にすることが『許容され・共有される』と考えてこられた風潮も考えるべきです」と注意を促し、「自分より下の存在であるとみなした相手を笑いの対象とし、その属性をあげつらう姿勢はいじめの構造と何も変わらないようにも見えます」と批判しました。

 この問題ではエンジニアの遠藤謙さんも次の記事にコメントしています。

▽吉野家、経営揺るがす元常務の不適切発言 親子丼新発売も難しいPR(19日配信)

https://www.asahi.com/articles/ASQ4M6TL5Q4MULFA01G.html

 遠藤さんは「今回の発言に関しては、自身の周辺環境では許容される表現が社会の許容範囲を超えていることに気づかず、無知なまま出世してしまった悲しい昭和の生き残りという印象を多くの人が持っているだろう」とコメントしました。「自分はそんなことはしないと思いたいが、実は思い当たる節は多々ある。業界内で当たり前になってしまっている文化が、外の環境にされると実は社会通念的に許されないことがある。そしてその判断基準は時代によって変化する上に、個人の発信が簡単に拡散されるので、この社会感覚を身に付けることが個々に必須となりつつある」と告白します。事例を上げた上で遠藤さんは「自身の領域の内側では平気で使われている表現が外部ではNGであるケースに当たるかどうか、非常に立ち回りが難しい時代になった。謙虚に生きていこう」と自らを戒めました。

 関連した別の記事に朝日新聞の岡本峰子仙台総局長もコメントしました。

▽元常務の発言、吉野家ファンに失礼 「冗談のつもり」に専門家が警鐘

https://www.asahi.com/articles/ASQ4M52GJQ4MUTIL00H.html(19日配信)

 岡本総局長は「差別発言をした本人は笑いをとる冗談のつもりで話し、人を傷つけることが多々あります。問われるのは、聞く側の態度です。その場を笑って流せば、話した人はウケたと勘違いして、また過ちを繰り返します」と指摘しました。その上で「今回、受講していた女性は、運営側にきちんと抗議をして、さらにSNSを通じて社会に訴えた。その勇気に心から感謝したい。あなたのおかげで、社会が一歩進んだ。ありがとうございますと伝えたいです」と共感を寄せました。

※コメントプラスは、ダイバーシティー、SDGs、働き方、教育・子育て、国際のジャンルに詳しい専門家と朝日新聞記者で昨年6月にスタートしました。その後、政治、スポーツ、デジタルの分野に拡大し、コメンテーターは現在約100人。有料会員登録していただくとすべてのコメントを読むことができます。5月10日まで、記事やコメントをお得にお読みいただける「春トク」キャンペーン中。ご登録はこちら(https://digital.asahi.com/info/standard_course/別ウインドウで開きます

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