末期がんの夫がすがった145万円ワクチン 「効果ない治療だった」
体温「36.8」
歩数「1829」
ノートには体温や体重、歩数などが細かく記録されていた。7年前、胆管がんで亡くなった男性(当時72)が手書きでつけていたものだ。
栃木県内の住宅。仏壇に置かれた男性の遺影は柔らかにほほえんでいる。昨年10月、取材に応じた男性の妻(73)は「きちょうめんな人でした」と振り返った。
「次は緩和病棟に」
男性は2014年に胆管がんと診断され、手術などを経て一時は元気に過ごしていたが、16年春に転移がわかった。3種類の抗がん剤は効果が出ず、医師から「次に具合が悪くなったら緩和病棟に入院を」と告げられた。
男性は治療を諦めず、ネット検索で「自家がんワクチン」を見つけた。患者自身のがん組織と免疫刺激剤を混ぜて加工したワクチンを投与すると、患者の免疫細胞が活性化され、がん細胞を攻撃するなどとうたっていた。
有効性や安全性が科学的に確認された「標準治療」ではなく、公的医療保険の対象になっていない「自由診療」にあたり、治療費は全て自己負担になる。
「ぜひやってみたい」。ある日の夕食で、男性は妻に熱っぽく語った。
ワクチン製造会社の説明資料には「狙ったがんがどんな種類であれ、効果が期待できます」「あまりにも進行し最末期になってしまった患者様では対抗しきれないという事態が起こります」などと記されていた。
「本当に効くのかな」。妻はそう思ったが、反対しなかった。
弁護士が感じた違和感
男性は17年春、製造会社と提携していた県内の総合病院を訪れた。その後、治療費約145万円を払い、3回にわたりワクチンの接種を受けた。
しかし病状は改善せず、高熱…
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- 【視点】
患者がある選択をするときに、その選択に関する情報がどれだけ得られているか?がとても重要です。 この件に関しては担当医が不利な情報を開示しなかったことが裁判で明らかになりますが、製薬会社側は不問とされています。 患者は医師や製薬会社との
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