第4回若手が非正規の研究労働者に、「才能を浪費」ノーベル賞梶田さん指摘

有料記事地方大は生き残れるか

聞き手・桜井林太郎
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 日本の研究力の復活には、地方大学が元気になることが欠かせない――。日本学術会議の前会長で、ノーベル物理学賞受賞者の梶田隆章東京大学宇宙線研究所教授(64)は指摘する。なぜそう考えるのか、日本の大学とりわけ地方大学をめぐる現状と、日本の学術システムの課題を聞いた。

 ――梶田さんは1981年に埼玉大を卒業されました。日本のノーベル賞受賞者は東大卒や京大卒ばかりでなく、いろんな大学の出身者がいます。

 研究する力というのは、高校時代のテストの点数ばかりで決まるのではないと思います。私は高校時代は必ずしも成績がよいわけではなかったのですが、埼玉大に行って物理学の基本を学んで、高校時代とは違う奥深さにふれる機会があったのがよかった。

 先生が一般相対性理論をアインシュタインが見つけたときの話をかみ砕いて教えてくれて、「ああそういうことなんだ」と思い、物理学のおもしろさに目覚めました。あんまりいい生徒じゃなかったけど、ゆるさというか、適当な時代で、のびのび育った。素粒子実験をやりたいと思い、大学院から東大に移りました。学部時代は学問への入り口でした。

 ――いまの地方大学をめぐる研究環境をどうみていますか?

 東大とは相当違う現状が地方の国立大学にあると聞いています。例えば生物系なら、様々な生き物を飼育して研究材料としている先生方がいますが、今の財政状況から地方では維持するのが非常に難しくなっている。

 常に一定のお金がかかるのに、科研費科学研究費補助金)を一度とれなかったらすべてがアウトになる、そういう非常に不安定な中で研究をしています。科研費が大学の研究者にとって命綱になっています。

 研究には連続してお金が必要なときがあり、科研費など、(評価をもとに配分される)競争的資金で受けている期間で完結できるわけではない。そのあたりがきちんと支援されないシステムになっている。

 ――国立大学の基盤的経費である運営費交付金が減っているのが背景にあると?

 それが大きいと思います。科研費などの競争的資金は増えたが、運営費交付金が減った分の一部を補っているにすぎない。国が研究項目を指定するようなトップダウン型の研究資金もあって、それで日本の大学の研究費は横ばいもしくはちょっと増えているという状況かと思います。

 国益を意識した研究費がいまはちょっと多すぎるように感じます。

一番よい時代を、非正規の研究労働者に

 ――日本の研究力の低下の原因は何だと思いますか?

 いろんな要素がありますが、国立大学が2004年に法人化され、運営費交付金を年1%ずつが減らされた。大学が運営費交付金から配った講座費がゼロになった教員も結構いると聞いています。

 一番影響を受けたのは若手研究者の安定的なポストが少なくなったことです。任期付きポストばかりになり、若手はともかく次の職を求めて、応募書類を出し続けるという構造にしてしまった。限られた任期の中で新しい成果をどんどん出さなければならず、質より量を要求されるような感じすらあります。

 20代後半から30代は本来、落ち着いて研究できる環境にあれば、画期的な研究をできる一番よい時代なのに、次のポストのために働くという非正規の研究労働者にしてしまった。研究成果を出すには、ある程度安定して研究できるポストにつかせ、研究時間を確保する必要があるのに、日本は多くの若い才能を浪費してしまった。

厳しい運営を強いられている地方大学。世界最高水準をめざす大学を支援する国際卓越研究大学制度など、加速する「選択と集中」に何を思うのか。各地を訪ね、本音や生き残りをかけた戦略を聞く。

 画期的な研究は、ある日急に…

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    本田由紀
    (東京大学大学院教育学研究科教授)
    2023年12月8日13時0分 投稿
    【視点】

    「選択と集中」による大学のしばきあげが、どれほど研究も教育もだめにしてきたかが詳しく述べられている。 こうした中で、一部の大規模大学に対して、政財界の特定の意向をいっそう注入するための国立大学法人法案改正が、目の前の国会で進められている。

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    田中俊之
    (大妻女子大学准教授 男性学研究者)
    2023年12月8日13時0分 投稿
    【視点】

    記事の主題とはズレてしまいますが、梶田先生の「研究する力というのは、高校時代のテストの点数ばかりで決まるのではないと思います。私は高校時代は必ずしも成績がよいわけではなかったのですが、埼玉大に行って物理学の基本を学んで、高校時代とは違う奥深

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