国家の危機で一致団結…せず ネタニヤフ支持率で読み解くイスラエル

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聞き手・荒ちひろ
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 パレスチナ自治区ガザ地区への報復攻撃を続けるイスラエル。今回の衝突が起きる前から、国内では司法改革をめぐって世論の分断や混乱が生じていました。攻撃が激化する中、イスラエル国民は事態をどう捉えているのでしょうか。龍谷大学の浜中新吾教授(中東現代政治)に聞きました。

 ――イスラエルでは今回の戦闘前から、ネタニヤフ政権への批判が強まっていたようです。何が起きているのでしょうか。

 今年1月に司法改革案が公表されて以降、抗議の動きが法曹界から経済界、軍にも広がり、大学や企業、空港などでストライキが起きたり、予備役が任務拒否を表明したりする事態になっていました。

 イスラエルの日刊紙マアリブが、「いま総選挙が行われたら国会の120議席の構図はどうなるか」について世論調査を実施し、ハマスによるイスラエルへの大規模攻撃が起きる直前の10月6日に公表した内容によると、連立与党が55議席(約46%)、野党が65議席(約54%)と、「野党有利」の結果になっていました。

イスラエル世論の分断、背景に極右政党の台頭

 ――ネタニヤフ首相は、司法改革を掲げて昨年11月の選挙で勝ったのでは?

 選挙の時点で重視されたのは、治安問題でした。パレスチナ自治区ヨルダン川西岸地区でのイスラエル人入植者とパレスチナ人との衝突が激化し、アラブ人のイスラエルからの追放を公言したこともあるベングビール氏(現・国家安全保障相)や、パレスチナの村の「消滅」を求める発言(後に釈明)などがあるスモトリッチ氏(現・財務相)といった極右政党の政治家たちが治安の危機をあおり、支持を伸ばしました。彼らと連立を組む形で、ネタニヤフ氏が政権に返り咲いたのです。

 イスラエルの最高裁判所は、例えばユダヤ人入植地の拡大政策を「違法」と判断するなど、国会の決定に対する一定のチェック機能を果たしてきました。その状況に対し、「選挙で選ばれていない裁判官の権限が強すぎる」としてネタニヤフ政権が打ち出したのが、今回の司法改革案です。最高裁の判断を国会が覆すことを可能にしたり、裁判官人事への政府介入を強めたりする内容です。

 ただ、多くのイスラエル人には、「自分たちの国は民主主義国家だ」という強い自負があります。司法の権限を奪いかねない改革案に、与党支持者の間でも反対の動きが広がったのです。

 ――10月7日にガザ地区を実効支配するハマスがイスラエルを奇襲後、政権に対するイスラエルの世論はどう動いていますか。

 マアリブが10月13日に公表した世論調査によると、連立与党が42議席、野党が78議席と、与党は支持を大きく減らしています。今回の衝突の責任をネタニヤフ氏が引き受けるべきだという声は80%に上りました。20日と27日、11月3日公表の調査でも与党42~43議席、野党77~78議席と、横ばいです。

国家の危機で「一致団結」…は見られず

 一般的に、戦争のような国家の危機に直面すると、同じ旗の下に一致団結して難局を乗り切ろうという国民の心理的結束から、指導者への支持が高まる「旗下集結」という現象が起こります。2001年の米同時多発テロ後、ブッシュ大統領(当時)の支持率が急上昇したのはその一例です。

 この世論調査結果を見る限り、旗下集結が起きているとは言えません。少し意外に思いました。支持が落ち込むネタニヤフ氏としては、より強い行動に出て事態を打開しないと失職は免れない。武力衝突の激化は避けられない状況です。

 ――イスラエルがハマスへの反撃に出ても、支持率が上がっていない理由はなんでしょうか。

 司法改革をめぐる国内の分断…

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この記事を書いた人
荒ちひろ
GLOBE編集部
専門・関心分野
国際政治、中東、パレスチナ問題
イスラエル・パレスチナ問題

イスラエル・パレスチナ問題

イスラム組織ハマスが2023年10月7日、イスラエルに大規模攻撃を行いました。イスラエルは報復としてハマスが実効支配するパレスチナ自治区ガザ地区に攻撃を始めました。最新のニュースや解説をお届けします。[もっと見る]