真相は語られるか 愛知知事リコール署名偽造事件、2年ぶり公判へ

高橋俊成
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 大村秀章愛知県知事への解職請求リコール)の署名が偽造された地方自治法違反事件。主導役とされる運動団体の事務局長田中孝博被告(62)の公判が13日、名古屋地裁で約2年ぶりに開かれる。事件のあらましや裁判の注目点をまとめた。

 地方自治法には、一定数以上の有権者の署名を集めれば首長らの解職などを請求できる「直接請求制度」が設けられている。選挙と並んで、住民が地方自治に参加するための重要な仕組みだ。

 この事件では同制度が悪用された。有罪が確定した共犯2人の裁判記録によると、きっかけになったのは2019年に開催された芸術祭「あいちトリエンナーレ」の企画展だ。

 展示内容を問題視した田中被告らが実行委員会会長だった大村知事のリコールに向けた運動団体を20年に設立。署名集めを始めたものの、期限内にリコールに必要な署名数に遠く及ばない状況を危惧した田中被告が事件を企てたとされる。

 共犯2人の確定判決は、事件について「ありもしない民意を捏造(ねつぞう)することで、選挙で選ばれた知事の解職をもくろんだ」などと指摘。その上で「直接民主主義や地方自治の根本をないがしろにする悪質な犯罪だ」と断じた。

 事件が与えた影響は大きく、総務省は制度改善のために有識者らによる研究会を設置。研究会が事件の背景について「署名収集者を署名簿で特定できないことが不正への心理的なハードルを下げている」と指摘したことを受け、昨年12月に署名簿に収集者の氏名欄を新たに設け、偽造すれば罰則があることも明記した。

 一方、事件にはなお謎が残る。署名を偽造するために投じられた多額の費用は誰が捻出し、なぜ事件が起きたのかといったことだ。

 田中被告が捜査段階で黙秘したとされるなか、検察は共犯2人らの供述や押収した資料などで事件の構図を描いた。2人の裁判記録によれば、偽造のための費用は計1千万円以上に達し、アルバイトなど大量の人員が投入された大規模な事件の主犯格は田中被告だとされた。

 田中被告は21年5月の逮捕以降、事件の真相について公の場で明らかにしていない。同年9月の初公判でも起訴内容への認否を留保。今後の公判では被告人質問が行われる可能性もあり、事件の真相が被告の言葉で解き明かされるかが焦点となりそうだ。(高橋俊成)

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〈リコール署名偽造事件〉 大村秀章・愛知県知事へのリコール署名を巡り、運動団体が提出した署名約43万5千筆のうち、約8割にあたる約36万2千筆に同一筆跡など無効の疑いがあると県選挙管理委員会が2021年2月に発表。県警が同年5月に事務局長の田中孝博被告と次男(31)らを地方自治法違反容疑で逮捕するなどした。

 名古屋地検は同年6月にこの2人のほか、広告関連会社元社長(40)も同法違反罪で起訴。3人は共謀して20年10月下旬、佐賀市でアルバイト3人に愛知県内の有権者計71人の氏名を署名簿に書き写させ、偽造したとされる。

 田中被告は21年9月の初公判で起訴内容への認否を留保。これまで争点や証拠を絞り込む期日間整理手続きが行われていた。共犯2人の刑事裁判は終結し、次男は懲役1年6カ月執行猶予3年、元社長は懲役1年4カ月執行猶予4年の有罪判決が確定している。

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