五輪選手へ相次ぐ中傷 人格否定、被爆地からかう言葉も

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室田賢 遠田寛生 吉永岳央 畑宗太郎 ソウル=鈴木拓也
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 五輪出場選手へのSNSでの誹謗(ひぼう)中傷が相次いでいる。度を超えた批判が選手を疲弊させ、選手自らが中傷をやめるよう訴える事態に。日本オリンピック委員会(JOC)や国際オリンピック委員会(IOC)は対策に乗り出し、SNS上でも選手を守ろうとする動きが広がっている。

 体操男子個人総合で金メダルを獲得した橋本大輝選手(19)は、決勝翌日の7月29日、自身のインスタとツイッターに文章を投稿した。

 「祝福のメッセージも寄せられ、多くの人に応援してもらっていると感じ、うれしい」とつづる一方、「SNSでの誹謗中傷とみられるメッセージもあります」と明かした。採点結果への批判が寄せられていたことから自身の考えも説明し、「誹謗中傷とみられる行為を行う人が少なくなることを願っています」とした。国際体操連盟(FIG)は同日、採点規則を示したうえで「採点は公正で正確だった」と声明を出す異例の対応をした。

 サーフィン男子で銀メダルを獲得した五十嵐カノア選手(23)にも「審判を取り込んだ」などの中傷が多数寄せられた。「広島と長崎」という言葉を使って被爆地をからかう言葉も見られた。

国際体操連盟が異例の声明

 五十嵐選手はツイッターを更新し、「僕は常に相手に最大限の敬意を払っている。自分がコントロールできないことについて悪口を言いたがる人には我慢できない」と訴えた。だが、中傷する投稿はやんでいない。

 卓球の混合ダブルスで金メダルを獲得した水谷隼選手(32)は7月31日、自身に寄せられた中傷コメントについて、関係各所に連絡して対応するとツイッターで表明した。「死ね」「人間やめろ」などの投稿が相次いでいたという。

 水谷選手のマネジメント会社は取材に対し、五輪期間中に中傷がエスカレートしていることや、若い選手らも被害を受けていることを水谷選手が案じ、行動したと説明した。

 タレントやアーティストに対するものも含めSNS上での中傷がやまない現状を放置したくないという思いも水谷選手にあるという。

 一方、情報サイトの編集者が匿名アカウントで、女子テニスの大坂なおみ選手(23)に対して差別的な投稿をしていたことも発覚した。この編集者に業務委託していた徳間書店は「人権侵害を伴う不適切な投稿」と謝罪し、契約を解除したとホームページで公表した。

 SNS上ではアスリートたちに対して「弱い」といった批判や人格を否定するような書き込みがなくならない。誹謗中傷は選手に深刻な精神的不調をもたらす恐れがある。

 JOCは、選手に対する誹謗中傷を監視、記録しており「状況によっては関係機関と協力していく」としている。日本選手団の福井烈団長は1日の会見で「一部の心ない方からの投稿がある。選手が積み重ねてきた努力を侮辱する行為は、断じて許されない」と述べた。

 IOCアスリート委員会のカースティ・コベントリー委員長(ジンバブエ)は7月29日の会見で「ここ数日、数人の選手がSNSから離れた。私自身も1年前にやめている。応援の言葉はうれしいけど、ネガティブなコメントもくる。たとえわずかでも、傷つく可能性がある。こういうことが起きていてとても残念だ」と話した。

 IOCはパラリンピック選手を含めて、全選手が利用できるメンタルヘルスの緊急相談窓口を70カ国語で24時間開設しているほか、コーチやスタッフら最初の相談先になりうる人がどう対応するべきかをまとめたハンドブックをつくることを検討している。また、ヘイトスピーチや差別などに対して取り締まりを強化しているSNS各社の取り組みも支援していく構えだ。室田賢、遠田寛生、吉永岳央

中国サイト「中国から執拗な個人攻撃」

 SNS上での選手への中傷を止めようと、周りの人たちも声を上げ始めた。

 体操男子個人総合で橋本選手…

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    犬山紙子
    (エッセイスト)
    2021年7月31日22時17分 投稿
    【視点】

    有名税という言葉が囁かれ、誹謗中傷を受けるのも公人なら仕方がないといった考えする人もまだいるようだ。 こういった考えがあるのはメンタルヘルス周りの知識がなく、誤った見解、偏見が未だ強いという現状も大きく関係あるはずだ。 生涯を通じて

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  • commentatorHeader
    津田大介
    (ジャーナリスト)
    2021年7月31日23時32分 投稿
    【解説】

    ネット上の誹謗中傷問題をめぐる法的な問題に関して、今年日本で2つの大きな進展がありました。1つは誹謗中傷をしてきた匿名の投稿主を「特定」するために必要な費用(ツイッターなど、海外のSNSの投稿主を特定して名誉毀損や侮辱などで提訴するには現状

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