社員食堂で広がる「スマートミール」 食べてみました

食のおしゃべり

大村美香
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 社員食堂で「スマートミール」を食べる機会がありました。スマートミールは栄養バランスのよい食事の通称で、基準を満たす外食、中食を継続的に提供する店や事業所を認証する制度として昨年から始まりました。「1回食べたからって、健康になるわけじゃなし」と、懐疑的に見る人もいるかもしれません。でも、食べながら話を聞いてみて、いやいや、1回でも食べる体験は意義深いと思ったのです。

 取材に行ったのは、東京・丸ノ内にある日本生命保険相互会社東京本部の食堂です。運営している給食事業者は、西洋フード・コンパスグループ。この日のスマートミールは、「サワラの油淋ソース(甘酢香味ソース)」「小松菜と蒸し鶏の辛子マヨあえ」「麦ご飯」「ジャガイモとサヤエンドウのみそ汁」の4品でした。

 スマートミールには、「ちゃんと」(1食あたり450~650キロカロリー未満)と「しっかり」(同650~850キロカロリー)の2種類がありますが、ここで出しているのは、「ちゃんと」の方。この献立で、603キロカロリーです。

写真・図版

 「けっこう食べでがありそう」が第一印象。主菜の皿は揚げ物に大きなカボチャ、レタスがたっぷり。実際、完食するとお腹はいっぱいになりました。野菜をしっかり食べることができた実感があります。

 「スマートミールを目でみて食べることは、バランスの良い食事の量を学ぶことにもつながります」。20年来同社で栄養指導を行っている、「ヘルスサポート研究会カナン」代表で管理栄養士の新出真理さんは話します。バランス良い食事にはどれくらいの野菜が必要か、肉や魚の量はどれくらいかを、体感して理解できる。「そうなれば、普段の食事でも何が多いか、少ないかを分かって、修正もできるようになります」。栄養のバランス感覚が養えるということなのですね。

 「ちゃんと」の基準では、食塩相当量は3.0グラム未満と定められています。外食や中食では万人向けにおいしいと思ってもらうために味が濃くなりがち。かなり高いハードルだと思います。ここの献立では様々な工夫がされていました。「全部を薄味にすると満足感が減ってしまう。メリハリをつけます」。主菜は油で揚げることで食べ応えを増し、酸味を生かした油淋ソースをかけ、魚の下に敷いたレタスと一緒に食べます。甘みのあるカボチャは加熱しただけ、味付けはなし。一方、副菜のあえものには、マスタードの風味を利かせています。酸味や辛みなど、味のバリエーションを持たせて、満足できる仕掛けです。

 外食の場合、みそ汁の塩分は高いところだと、1.2%ぐらいになりますが、ここでは1.0%未満に抑えているそう。飲んでみて違和感はなく、薄いという感じはしません。おかずの食塩量に合わせて汁の量も調節することがあるそうで、この日は具を大ぶりにした分、汁の量は少なめだそうです。「活用しているのは、減塩の基本的なテクニックです」と新出さん。

 ご飯は正確に計量して提供し、盛りつけに気を配り、食事の見た目も大事にしているそうです。「スマートミールの体験が、食べる方自身の食事を振り返る機会になれば。これは大人の食育だと思います」。食堂の入り口には見本が飾られており、何げなく見るだけで、「健康的な食事って、こんな感じなのだな」と注文しない人にも印象づける効果もあるのではないかと感じました。

 この食堂の利用者は1日約500人、スマートミールは毎日50食を提供し、ほぼ完売。固定ファンがついているそうです。日本生命保険相互会社東京本部は、昨年の第1回で認証を得ました。「卓上に調味料を置いていない」「主菜で週3日以上、魚を提供」など18のオプション項目を10以上満たした、最高ランクの三つ星です。企業として健康経営への取り組みを進める中で、スマートミールも導入したと言います。健康経営は、従業員らの健康管理を経営戦略に位置づける考え方で、経済産業省が推進中。

 同じようにスマートミールを導入する企業が多く、8月29日に発表されたスマートミールの第3回認証結果では、外食、中食、給食の全3部門のうち、企業の社員食堂などを対象とする給食部門が88件と、今回認証した全119件の7割以上を占めました。記者会見では「1回目では、給食事業者が企業側に声をかけて応募する流れだったが、今回は、企業が健康経営で社員食堂を活用しようと自ら動いている事例が多い」と説明されていました。こうした動きに支えられ、スタートから1年、合計304の事業者が認証を得て、富山、鳥取、愛媛県を除く全国に広がっています。

 ただ、スマートミールの認知度はまだ高くありません。記者会見では今年3月に約2900人を対象に実施した調査結果も公表されました。「スマートミール」の言葉を「聞いたことがある」、あるいは「意味を知っている」と答えた人は18.6%。認証制度があることを知っている人は3.6%に過ぎませんでした。知られていないため、利用が少ないという悩みを抱える店舗もあるそうです。また、認証期間は2年間で、継続のためには更新が必要。来年度から、更新時期を迎えた認証事業者がどれだけ更新するかでも、今後の普及度は左右されそうです。

 

※スマートミール「健康な食事・食環境」認証制度のサイト

http://smartmeal.jp/index.html別ウインドウで開きます

<アピタル:食のおしゃべり・トピック>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/eat/

(大村美香)

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大村美香
大村美香(おおむら・みか)朝日新聞記者
1991年4月朝日新聞社に入り、盛岡、千葉総局を経て96年4月に東京本社学芸部(家庭面担当、現在の生活面にあたる)。組織変更で所属部の名称がその後何回か変わるが、主に食の分野を取材。10年4月から16年4月まで編集委員(食・農担当)。共著に「あした何を食べますか?」(03年・朝日新聞社刊)