(フォーラム)子どもとSNS:2 つきあい方
子どものSNS利用については、日本でも大きな議論になっています。実際に使っている10代も多い現実を前に、どんなつきあい方をすればリスクを減らすことができるのでしょうか。若い世代のインフルエンサーや情報セキュリティーの専門家に聞きました。
■私の「日常」、でも警戒心は緩めない 時間差投稿/DMは見ない/もめ事に「やめて」 みりちゃむさん
若い世代は、どんなSNSをどうやって使っているのか。タレント、モデルのみりちゃむさん(22)はインフルエンサーとしてSNSを使いこなす。その管理の仕方やSNSへの思いを聞いた。
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SNSを使い始めたのは、中学生くらいの頃でした。いまは、X(旧ツイッター)、インスタグラム、TikTok、YouTubeを主に利用していますが、使い方は少しずつ違います。Xでは、自分がそのとき思ったこと、素に近いことをつぶやいています。インスタでは、ファンに向けて仕事の合間のオフショットやプライベート写真を投稿しています。YouTubeだと、最近はうちで飼っている猫のことが多いですね。
発信するだけではなく、SNSが私の情報源になっている部分もあります。美容系の情報とか、以前は本で知ったようなこともSNSで見ることができる。調べ物をするために使う感覚です。SNSは、ご飯を食べるのと同じくらい日常に入りこんでいます。
ただ、SNSを使う上で注意はしています。例えば、家の近くの風景が写っているような写真を投稿しないとか、撮ってから時間差を設けて投稿するとか。ダイレクトメッセージで仕事の依頼が来ることもありますが、基本的にやりとりはしません。嫌なコメントを残されることもあるけれど、わざわざ見る必要はないのでブロックしています。
それから、SNS上で私のファンが、私に関することでほかの人を攻撃しそうになったことがありました。私まで巻き込まれるのがマジで嫌だった。そうなる前に「やめて」と呼びかけました。
そういう対応は、大人から教えてもらったわけではありません。仕事をしていくなかで少しずつ身についていきました。
私の場合、SNSは仕事の一環でもあります。でも、一般の若い子たちは色々な人とつながりたいと思ってSNSをやっているわけですよね。使い方に気をつけないといけないという意識はみんな持っているけれど、少し興味が勝ってしまうこともある。対面だったら持つはずの警戒心が、SNS上だとちょっと薄くなるような。
私はSNSを開いたときに、注意喚起のメッセージが出てきたらいいのにと思います。ATMを使うと「詐欺に注意」という画面がでてきますよね。そういう感じです。詐欺の場合は、こういう手口に気をつけろっていう参考情報がある。けれど、SNSだと、何が危ないかという情報がなかなかない。定期的に実例が出てくるようになれば、みんなもう少し気をつけるのではないでしょうか。
トラブルに巻き込まれないようにするには、小さい頃からどんな使い方がいいのか、すり込むしかないかなと思います。ただ、親や学校の先生のように元々教える立場の人が危険性や注意点を伝えても、あまり聞かないことはありますよね。「ああやって言われたけど、大丈夫だったじゃん」という経験がこれまでにもあるはずなので。私も弟がいますが、親が言うより私が言う方が聞くんですよね。だから、私のようにSNSを使う子どもたちと年が近い人が関わっていく必要もあると思います。(聞き手・富田洸平)
■紙面講座 覚えてほしい、潜むリスク 慶応大大学院KMD研究所・花田経子さん
子どもとSNSに関わるリスクにどう対応したらいいのか。小中高校で情報セキュリティーについて講演している慶応大大学院KMD研究所所員の花田経子さんに「紙面講座」を開いてもらった。
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「今日は二つ、絶対に覚えてほしいことがあります」
「まずは『6秒ルール』です。SNSに投稿する前に6秒間待ってください。興奮しているとき、すぐに行動するとミスを犯しがちです。いったん心を落ち着かせ、投稿内容をチェックしてください」
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<所在地の特定に注意> 「もう一つは『インターネット五つの約束』です。(1)SNSで悪口を書き込むなどして人を傷つけない。(2)ネットで知り合った人に自分に関する情報、例えば名前や住所、連絡先などを教えない。(3)ネットで知り合った人と会わない。(4)人のIDやパスワードなどを勝手に使わない。自分のものも人に教えない。(5)困ったことが起きたらすぐに保護者や身近な大人に相談する。最後が一番重要です」
――暗記した方がいいですね。
「ええ。ではクイズです。私の中学2年生の娘が、SNSのアイコンを、自宅のベランダから撮った夕日にしようとしていたので、止めました。なぜでしょうか」
――周囲の景色に問題があるから、ですか。
「正解です。約束の(2)に違反しています。周りの建物から、おおよその家の場所が特定されます。みなさん、自分のSNSに学校名と年齢を書いていませんか?」
「学校名から通学範囲が、年齢やニックネームから誰なのかがわかります。SNSに載せた情報の組み合わせで、プライバシーが侵されるリスクがあるのです。家にカギをかけるのと同じ感覚で注意しましょう」
――どこにリスクが潜んでいるのかを知ることが大切ですね。
「その通りです。では、2問目。オンラインゲームで仲良くなったAさんから『下着姿の写真を送ってよ』と言われた。嫌われたくないので送ったら、『会いたい。断ったら写真をばらまくぞ』と脅された。誰にも相談できずに会いに行った。あなたは、どうしたら良かったでしょうか」
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<プライベート送らない> ――知らない人には会ってはいけない、ですか?
「違います。ネット上ではもう知り合いなんです。だから(3)は『知らない人』ではなく『ネットで知り合った人と会わない』です。オンラインゲームやSNSでやりとりするときには、男女問わず誘い出しのリスクがあります」
「そして性的な行為、プライベートゾーンが見えているような写真や動画は絶対に撮らないでください。撮影した本人も法律違反になる可能性があります」
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<まず保護者に相談> 「また、(2)と(5)にも違反しています。大人に相談していたら、Aさんへの上手な断り方や警察への相談など有益なアドバイスをもらえたかもしれません。ネットやSNSよりも、身近な大人や警察、公的な機関が運営する相談場所を利用しましょう」
――自宅で、保護者ができることはありますか。
「もちろんです。では、最後にそれを宿題にします。(1)スマホの利用時間や場所(2)メールやSNSに投稿するときに守ること(3)困ったときに相談する相手、などについて家族で考えてください。避難訓練と同じで事前に準備しておかないと、いざ問題が起きたときにとっさに動けないものです」(聞き手・吉田純哉)
■《中学生の感想》ノリや冗談に注意したい/誰でも見られる設定やめます
子どもたちの声として、花田経子さんの講義を受けた愛知県内の中学生の感想を紹介します。
「スマホを持ち始めたときには最大限の注意をしていたのに、そんな意識が薄れていました。改めて注意を取り戻せました」
「これからは、安易にできることと犯罪が隣り合わせになっていることを意識して行動したい」
「ノリや冗談交じりでやっていることも、人によってはすごく傷ついていたり、法に触れたりすることもあるかもしれない。『6秒ルール』を意識し、自分の投稿で嫌な気持ちになる人がいないかを考えていきたいと思います」
「インスタのプロフィルに、学校名を少し変えたかたちで書いてしまっていたので、書くのをやめました。個人情報が流れていくのはとても怖いと知りました」
「友達とLINEでトラブルになったり、けんかしてしまったりしたときは、自分で解決すればいいと思っていたのを改めた。少しでも困ったことがあれば、大人に相談しようと思います」
「アカウントを公開すると誰でも投稿を見られてしまうので、今すぐ非公開にして、見せたい人だけ見られる設定にします」
■《記者も感想》
家族旅行中、SNSに写真を載せると、自宅に不在であると知られてしまう。そんなリスクもある半面、楽しむ子どもの気持ちも大事にしたい。「吉田さんなら子どもにどう声をかけますか?」と、花田さんから聞かれた。大人向けのクイズだ。
「旅行から帰ってから投稿しよう」と答えて、正解だった。他には、カギ付きアカウントだけに限定する、所在地を特定できない写真にする……などの具体策を教わった。
「五つの約束」で一番重要なことは「身近な大人に相談する」ことだという。周りの大人は、子どもが相談しやすい環境を作るだけではなく、相談されたときにどう声をかけたらいいのかまで考える必要がある。どんどん新しいSNSが生み出されるなか、自分に対応できるか、不安になる。(吉田純哉)
■《取材後記》大人が解像度高めるところから
子どもたちにとって、SNSは単なるコミュニケーションツールにとどまらない。相互性を持ち、情報収集ができる特性から、創造性を育む場にもなっていることを取材で知った。それを踏まえれば、むやみにSNSから遠ざけるより、安全に使う策を身につけてもらうほうがいいのではないかと感じる。
そのためには、周囲の大人がリスクを根気よく伝えていく必要がある。ただ、自分事として考えると、土台となる知識がまだ足りていないのが正直なところだ。どんなSNSが子どもの間で流行しているのか。どんな使い方をし、どんなリスクがあるのか。SNSへの解像度を高めるところから、まずは始めたい。(富田洸平)
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とみだ・こうへい 2009年入社。オピニオン編集部員。大学生の頃に「mixi」を始めたのを皮切りに長年SNSを利用している。
◇アンケート「どうなる部活動の地域移行」をhttps://www.asahi.com/opinion/forum/で実施しています。
◇次回4月6日は「フォーラム面10年」を掲載します…