(社説)教科書検定 制度見直し 考える時期
教科書検定の制度が転換期を迎えている。文部科学省が発表した今年度の検定結果に、そう考えさせられた。
今回の対象は、2026年度から少なくとも29年度にかけて、主に高校1年生が使う教科書。ネットいじめや闇バイトといった情報モラルにかかわる問題や生成AIなど、社会のデジタル化や、それによって生じた課題に触れた内容が充実した。読み取ればデジタル教材に飛ぶQRコードは、ほぼ全てに載った。
現在の仕組みでは、各教科書の検定は4年に1度。検定の根拠となる学習指導要領の改訂は約10年に1度だ。だが技術革新は急速に進み国際情勢も激変する。情報1や歴史総合などではデータの更新が間に合わない部分があり、検定や改訂のペースを早めるよう求める声もある。
一方、検定や改訂の頻度を上げて内容が次々変わると、「その都度、多忙な教員が授業を練り直すのは難しいのでは」「出版社の作業が追いつかないのでは」などと心配もある。情報更新を重視しすぎて教科書や授業の質を低下させては元も子もない。
基本的な内容を教科書で押さえ、新情報はデジタルも含めた教材に。こうした役割分担を続けるにしても、大量のデジタル教材を点検する体制が整っていない。国の教科書調査官は目を通し切れず、教育委員会や学校の努力にも限界がある。子どもに悪影響を与える内容が紛れこまぬよう、新たなルールが必要だ。
教科書は、内容を詰め込めばよいわけではない。よりすぐりの本質を身につけ、それをもとに考えを深める材料であってほしい。
だからこそ、領土問題などでも政府見解を単に教え込むよりは、対立する見解も含めて提供することが望ましい。
今回も、尖閣諸島を「日本領土」とした記述を「日本固有の領土」と直すよう検定意見が付き、修正した出版社がある。本来は将来を担う高校生が、日本の立場をふまえつつ隣国の主張も把握して考える機会とすべきところだ。そうした姿勢こそ、政府が掲げる多様性や国際平和の重視につながるはずだ。
折しも検定のあり方に大きな影響を与える指導要領の改訂に向けた議論が始まった。主体的に学び、多様な意見をふまえつつ解決策を考える力を育む。その方向で教育を深化させることが望まれる。
そのために教科書と教材の役割をどう分担し、どんな姿勢で、どの範囲まで検定を行うのか。転換期だからこそ、制度を根本から見つめ直す機会としなければならない。
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