(社説)立花氏襲撃 暴力の行使は許されぬ
自らとは異なる意見や考えを持つ相手への批判や反対は、あくまで言論をもって行う。それが民主主義社会のルールだ。暴力に訴えることはけっして許されない。
政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏が先週、男に襲われて重傷を負った。東京・霞が関の街頭で活動中、支援者との写真撮影の際に、なたのような刃物で切りつけられた。
警察の調べでは、男は政治団体への所属は確認されておらず、立花氏との面識もなかったとされる。「兵庫県議の自殺のニュースを見て殺意を抱くようになった」と供述しているという。
兵庫県議会の調査特別委員会(百条委員会)のメンバーだった故竹内英明氏のこととみられる。斎藤元彦知事が元県民局長に告発された問題を調べる過程で、他の数人の県議や百条委とともに、SNSなどを通じて激しい批判や誹謗(ひぼう)中傷の対象とされた。
竹内氏は、斎藤氏が再選した昨年11月の出直し知事選の直後に「一身上の都合」で県議を辞職、今年1月に死亡した。自殺とみられる。生前、家族に危害が及びかねないことへの懸念など、心労を周囲に漏らしていたという。
立花氏は、知事選期間中から他者の発信を引用する形で竹内氏を批判し、選挙後には斎藤氏が告発された問題の黒幕が竹内氏とする文書も投稿。氏の県議辞職に関しても「警察からいろいろ聞かれている模様」などと発信したが、その後県警本部長が県議会で竹内氏への捜査を全面否定する異例の事態となった。
朝日新聞の社説は、こうした立花氏の一連の言動を批判してきた。だからと言って、立花氏に危害を加えた男の蛮行をけっして容認しない。
3年前に安倍元首相が銃撃されて死亡し、2年前には岸田首相(当時)に手製の爆発物が投げつけられた。昨年は自民党本部に火炎瓶のようなものが投げ込まれた。
いずれも国政選挙のさなかに起きた事件であり、民主主義の基盤である選挙の自由を脅かすものだった。
主義主張が違っても、言論によって一致点を見いだすのが民主政治だ。そのためには心すべきことがある。
まず、事実をしっかり確認した上で、自らの考えを述べること。そして、相手の人権や反論する権利を尊重すること。その一方でも欠ければ、中身をめぐる議論は置き去りにされ、相手を罵倒することを目的とした、過激さばかりが目立つやりとりに陥りかねない。そのことを社会全体で改めて顧みたい。
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- 【視点】
■「法治国家なう」なのか? この問題の社説が読売新聞よりも遅かったことは反省してもらいたいが、とはいえ、取り上げたことは評価する。いちいちそのとおりである。この社説にあるとおり、朝日新聞は立花氏の一連の言動に対する批判を社説においても、記事においても行ってきた。とはいえ、「だから立花は殺していい」という話にはならない。法治国家である。法に反する問題があるなら、法のもとに裁かれるべきだ。また、すでにそうなっているが、問題のある言動は批判してしかるべきだ。ただ、主張の是非はともかく、政治活動をしているときに刃物で襲ってはいけない。 この社説でも指摘されているが、安倍元首相は銃撃されて命を落とし、岸田氏も首相在任時に爆発物が投げつけられている。この世から根絶しなくてはならないのは、嘘、差別、暴力だ。政治家が嘘を言い、中には差別的発言をする、パワハラをする日本ではある。ただ、だからと言って、彼ら彼女たちに対する嘘、差別、暴力を容認してはならない。 暴力はときに、監視、管理を生み出す。自由な政治活動と、それに対する自由な批判ができなくなることも恐ろしい。安倍元首相が撃たれた翌日の、東京都内の参議院選の様子を見て回っていたが、「不自由」な光景に絶句した。自由を守るためにも暴力を許してはならないのだ。
…続きを読む - 【視点】
近年、SNS上などで暴力を肯定するようなコメントを目にする機会が増えており、憂慮しています。安倍元首相銃撃事件では、一部の文化人からその行為を容認する声が上がったことに驚かされました。最近では、立花氏への襲撃事件や、配信者の女性が殺害された事件についても、「自業自得」とする意見が散見されます。たとえ批判されるべき点があったとしても、それを理由に暴力を正当化するのは極めて危険な飛躍です。「この場合なら暴力は許される」という理屈を容認すれば、その適用範囲は際限なく広がり、社会全体が暴力を受け入れる方向へと傾いてしまうでしょう。暴力の横行はひとびとの感覚を麻痺させ、さらなる事件を誘発する可能性もあります。1930年代の日本でも、政治的な閉塞感を打破する手段として暴力が用いられました。その結果、日本は悲惨な歴史を辿ることになったわけです。われわれはその歴史を、昭和100年の今年、あらためて思い出すべきではないでしょうか。
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