(社説)高額療養費 当事者の声 きかぬ過ち
制度の見直しで負担が増す当事者の声をきかず、理解を得られる案になっていなかった。なぜこんな事態になったのか。謙虚に反省し、難しさを増す社会保障施策のかじ取りへの教訓にすべきだ。
医療費の患者負担に月ごとの限度を設ける「高額療養費制度」をめぐり、福岡資麿厚生労働相が、がんや難病の患者団体と面会した。「特に影響の大きい、長期にわたって療養されている方の負担感を含め、ご意見をしっかりお聞かせいただきたい」と述べ、原案の修正を検討する意向を伝えたという。
今回の見直しは、新年度の予算案の前提になっており、国会審議は大詰めの段階だ。なぜ今になって、意見を聞くことになったのか。
患者団体側は、最も大きな影響を受ける当事者の声が決定プロセスに反映されていないことに、大きな不満を抱いている。
患者が自分の負担増を計算するのに必要な数字や、実施の日程が示されたのは年末の政府予算案の決定の直前だった。その後、反対意見が一気に表面化し、専門家からも現役世代への影響を懸念する声が上がり始めた。
厚労省の社会保障審議会医療保険部会で高額療養費の検討が始まったのは昨年11月。委員の出身母体は、医療提供者、医療保険の運営者、経営者団体や労働組合など中間組織が中心で、患者側に近いのは、全国老人クラブ連合会と、NPO高齢社会をよくする女性の会だけだ。この構成で、働き、子育てしながら治療を続ける現役世代の声を反映するのは、無理がある。
患者団体側も、保険機能の維持のために医療費を抑える必要性は認めている。ただし、効果の乏しい医療や、市販薬と効果やリスクが似る薬への保険給付を見直すといった抑制策の検討が先ではないか、と主張する。
いずれも、様々な利害がからむが、野党にも支持の意見がある。政府・与党だけで決定を急ぐのではなく、様々な意見に耳を傾け、負担の分かち合いを議論する場を設ける時ではないか。
社会保障は、生活一つひとつの場面に関わる「各論のかたまり」だ。健康で不自由もなく働いている人からすれば保険料をとられる仕組みでしかないが、ひとたび病気になれば不可欠な存在になる。百人いれば百通りの風景がある一方で、社会全体の給付と負担のバランスも求められる。
その困難な課題を幅広い政党が共有し、責任をもって調整に参加する。そんな国会の議論を期待したい…
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