(社説)高額療養費 連帯弱体化に歯止めを

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 社会保障の機能が際限なく後退していくのではないか。そんな懸念に、歯止めをかけなければならない。

 「高額療養費制度」のあり方が、国会で焦点になっている。医療費の患者負担に月ごとの限度を設け、がんなどの重い病気になった時に生活が破綻(はたん)しないようにする仕組みで、「大きなリスク」のカバーという公的医療保険の最重要の機能の一つだ。

 政府は、この制度の自己負担の大幅な引き上げを提案した。例えば、月収40万円台後半の人の場合、毎月の限度額を、現行の約8万円から14万円近くに引き上げる。保険がカバーする範囲を徐々に狭くし、約3千億円(2027年度)を患者が窓口で払うお金に置き換える想定だ。

 これに対し、患者団体や専門家が「治療の継続を断念する患者が出るおそれがある」といった懸念の声を上げた。石破首相は「誠心誠意、お話を承る」と答弁し、引き上げの一部緩和の検討に入った。保険機能の維持に十分な修正になるか、見極めたい。

 今回の引き上げ案の背景には、岸田政権が子ども・子育て支援金制度の創設の際に繰り返した「実質的な負担は生じない」という説明の存在がある。支援金1兆円は、社会保険料負担の「軽減効果」の範囲内で導入するとされており、今回の高額療養費制度の見直しで抑制される保険料もその一部だ。

 確かにその分、社会保険料は減るが、負担がなくなるわけではない。高い医療費が必要になる患者の自己負担や受診控えに代わるだけだ。片面しか見ない議論では「負担」の認知がゆがんでしまう。

 近年、税と並んで社会保険料の引き下げを主張する声が政界で強まっている。だが、社会保険はそもそも、病気などのリスクに社会の構成員が連帯して立ち向かうための仕組みだ。保険料は、安心をつくる拠出ともいえる。

 確かに、社会経済の変化に応じて、制度を見直すことも必要だろう。ただその場合にも、社会保険の本質的な役割や意味づけをもっと明確にして議論すべきではないか。

 政府は、社会保険料が国民所得に占める割合を「社会保障負担率」と位置づけ、負担の増減の判断基準に用いている。権丈英子・亜細亜大教授は「これを社会保障連帯率と呼べば、連帯や助け合いの仕組みである意識が高まるのではないか」と指摘する。

 「負担」への嫌悪感を一面的にあおるのではなく、連帯の大事さと、その力の生かし方を考える。そうした議論こそ、国会には期待したい。

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    千正康裕
    (株式会社千正組代表・元厚労省官僚)
    2025年2月7日7時39分 投稿
    【視点】

    人口減少・少子高齢化の中で、現役世代が減る一方で高齢者が増えている。つまり社会保険の支え手が減る中で医療や介護など需要は増えている。 今のままの仕組みは維持できない構図になっており、これは人口構造の問題であり、制度の見直しは避けられない。

    …続きを読む