(パブリックエディターから 新聞と読者のあいだで)励まし、励まされ、解決の糸口を 今村久美
木々が色づき、肌寒くなる季節になると、こどもの支援にかかわる人にとって気になる統計が発表される。文部科学省が前年度の不登校やいじめなどを調査した結果で、今年は10月31日に公表された。
昨年度、不登校だった小中学生は前年度から5万人近く増え、過去最多の約34万6千人になった。「病気」で長期欠席した小中学生も10万人超。こどもの数は徐々に減っているのに、学校に行かない・行けないこどもは増え続けている。
朝日新聞は翌朝の社会面で大きく扱い、不登校急増の要因としてコロナ下の生活の乱れ、教員不足を含む態勢の不備、発達障害の支援不足などを報じた。一面的な断定を避け、丁寧に伝えようという意図はよくわかった。半面、全体として何を学べばいいのかは読み取りにくいと感じた。
長く教育現場を取材してきた氏岡真弓編集委員に聞くと、「あまりに不登校の子が多様すぎて、記者も個々の事情はわかるが、全体をつかみかねている」と話していた。
実は私自身、支援の現場にいて迷うことがある。これまで私は個々が選べる多様な受け皿や、個別の学習計画で学べる学校のあり方を模索すべきだと言い続けてきた。でも、ここにきてふと考え込んでしまう。
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不登校の子への学校や社会、家庭の理解は進み、フリースクールや校内サポートルーム、メタバースの居場所といった受け皿は少しずつ増えた。このいい流れにより「安心環境」を確保した次に、もう一度成長に伴走する「学びの場」に背中を押したい。福祉的ケアと教育活動のバランスに悩む。
オンラインの通信制高校が人気を呼ぶ時代、学校教育の本分とは何かも改めて問われる。
気になるのが、現場の教員がどんどん自信を失っているように見えることだ。「先生もこどもも繊細で、摩擦を避けようとする傾向が高まっているように思う」と氏岡編集委員。同感だ。私は学校の意義は、安心して失敗し、人とぶつかり、折り合わない人とも共生することを学べることにあると思う。その土台として不可欠なのは先生との信頼関係だろう。
先生たちが自信を持って取り組めるよう、メディアも力を貸してほしい。福祉と教育の難しいバランスを求められ、人手不足に苦しむ現場の「補助線」となる記事を通じ、先生を励ます報道をさらに増やしてはどうか。当事者や読者と、ともに考える糸口になるかもしれない。
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逆に、メディアが励まされることもある。興味深い試みがあった。
朝日新聞デジタルで10月7日に公開した特設ページ「ガザ戦闘から1年 現地通信員が見た戦場」。ガザから生々しいリポートを届け続けるムハンマド・マンスール通信員にメッセージを送りませんか、と読者に呼びかけていた。
「あなたの言葉は届いています」「悲しくてかけられる声もないですが、取材ありがとうございます」「平和が来るよう毎日祈っています」
そんな読者のメッセージを高久潤エルサレム支局長が仲立ちしてマンスール通信員に伝え、「ありがとう。みなさんにガザのことを知ってもらうこの仕事を誇りに思います」という返事を高久支局長の「記者タイムライン」にアップし、読者に届けた。
朝デジのアプリには、記者をフォローして「おたより」を送れる機能がある。マンスール通信員が「記事についての感想を聞いたら、私に教えてほしい」「読者のひとがいることは私たちが生きていく糧になります」と発言したのを機に、その機能を使ったやりとりを考えたという。
いつもパブリックエディターとして記事編集の裏側を聞くと、整った文章になることで削られる記者の性格や思い、悲しみといった要素はもったいないなと思っていた。だからこそ、そうした要素を含めて共感した読者が記者に寄り添えて、「励みになるかも」と参加できる試みにメディアの可能性を感じた。
担当するコンテンツ編成本部の杉崎慎弥次長、日高奈緒ディレクターは「記者は送り手、読者は受け手、という意識ではなく、双方が一緒にコンテンツをつくっていく意識に変わっていってほしい」と願う。
こういうコミュニケーションを重ねるうちに読み手との信頼関係が強まり、双方向メディアとしての足元は固まっていくのではないか。第三者として社会の課題を鋭くとらえ、指摘する報道は引き続き大事にしてほしい。ただ、ちょっとスタンスを変えて、当事者や読者を励まし、ときに励まされながらつながりを深め、課題の解決策をともに探っていく姿をもっと見てみたい。
◆いまむら・くみ 認定NPO法人カタリバ代表理事。不登校のこどもへの支援を続け、著書に『不登校―親子のための教科書』がある。1979年生まれ。
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