(社説)大阪地検特捜部 冤罪事件の反省どこへ

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 自らが描いた筋書きにこだわる。共犯とされる関係者の供述に過度に頼る。取り調べにあたる検事が密室で不適切な言動を重ねる――大阪地検特捜部は、そうした捜査と決別したのではなかったか。

 15年前、当時厚生労働省局長だった村木厚子さんを逮捕し、証拠の改ざんにまで手を染めた深刻な冤罪(えんざい)事件を思い起こさせる捜査のあり方が、今また法廷で問われている。

 学校法人の土地取引にからみ、法人や不動産会社の幹部らが業務上横領の罪に問われた事件。逮捕・起訴されたが無罪が確定した不動産会社元社長が、国に賠償を求めて大阪地裁に提訴し、地検特捜部で事件を担当した検事4人が証人として法廷に立った。

 刑事裁判で検察側は、元社長の当時の部下が「元社長も共犯」とした供述を支えの一つとしていた。だが判決は、元部下への検事の威圧的発言を認め、供述は信用できないとして元社長を無罪とした。

 この検事は、取り調べで机をたたき、「検察なめんな」と発言していた。検事は今回の法廷で「悪びれる様子もなく平然とうそを言ったから」「真摯(しんし)に取り調べに向き合ってほしかった」などと説明。自らの言動を「不穏当だった」としつつ、やむをえなかったかとの問いに「まあそうですね」と答えた。

 法人の元理事を担当した別の検事は、取り調べ中に元理事が供述の撤回を申し出たため主任検事に報告し、「元社長の逮捕は待った方がいい」と進言したことを説明。主任検事は「撤回前の供述のほうが証拠とも整合して信用でき、逮捕に影響はないと判断した」とし、進言については「思い出せない」と述べた。

 元社長が刑事裁判で無罪となり、賠償訴訟で検事の証人尋問が実現したのは、村木さんを巡る冤罪事件を契機に導入された取り調べの録音・録画の成果と言える。今は検察が直接担当する事件や裁判員裁判の事件に限られるが、対象を広げる検討が急務だ。

 録音・録画には、事後の検証を可能にすると同時に、強引な取り調べを防ぐ狙いもある。にもかかわらず、繰り返された。元社長が検事1人の公務員としての犯罪を裁判所で審判するよう求めた別の手続きで大阪地裁は昨春、請求自体は退けつつ、「意に沿う供述を無理強いしようと試みた」「驚くべき由々しき事態」とし、「裁判所は許容しない」と厳しく断じた。

 裁判所の相次ぐ警告を受け止め、捜査のあり方を刷新できるのか。地検特捜部は、司法の一翼を担う組織としての常識と良心が問われている。

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