(社説)放送法改正 目指す「公共」の姿は
改正放送法が成立した。NHKが任意で行ってきた、インターネットでの情報配信を「必須業務」に格上げするもので、地上波番組のネット配信も義務になる。
地上波の常時同時配信などは従来、テレビをはじめ放送の受信機器を持つ人しか契約や利用ができなかった。施行後は、ネット経由視聴のみの契約が可能になる。受信料は地上波と同水準の見通しだ。
これまで受信料は、NHKの「維持運営のための特殊な負担金」として、視聴の対価以上の意味を持たされ、放送法は受信機器を持つ人に契約を義務づけてきた。NHKをそこまで重視するのは、「公共の福祉」(放送法15条)に資することへの期待からだ。
「公共」の看板を掲げるからには幅広い市民の知る権利に応えていることが重要だ。テレビ利用者が減る中、番組を見てくれる人を増やすことが法改正の大きなねらいだ。
しかし両刃の剣でもある。
ネットのみの視聴者は、スマホなどの機器を持つだけでは契約は求められず、アプリの取得など一定の操作を行い受信を始めることが必要とされる。それ自体は妥当だ。
ただ、テレビを持つことと固くひもづき、NHKの番組を積極的には見ない人も含めて「みんなで支えてみんなで見る」想定の仕組みに、穴が開く意味は小さくない。
将来的に受信料制度の根幹を揺るがしかねない改正の、その先の像は十分に描けているのか。契約義務と、テレビが主役だった時代により確保されていた、広範な視聴者。それにより支えられていた「公共」の概念を、より鮮明なものへと磨くべき時だ。
NHKは政治的、経済的、様々な意図から役割を期待されるが、放送法1条の「健全な民主主義の発達に資する」ことこそが要諦(ようてい)だ。経営計画に掲げる2点の基軸のうち、ネット上の役割として強調されるのは「信頼できる情報の提供」だが、「多角的な視点の確保」も劣らず重要だ。政治や企業に忖度(そんたく)しない番組、視聴率に結びつきにくい少数者の声を流して欲しい。
「さすがNHK」とうなる番組はある。しかし「健全な民主主義」に近づいている実感を妨げる出来事も、絶えない。経営委員会による番組への干渉。不適切な支出。懸念される政治からの干渉――。
この状況でネット業務の経費と役割が膨張すれば、不透明さは増す。多元性が必要なメディアの生態系を壊す恐れもある。視聴者の不信感が解けるよう、健全な民主主義の原点をぶれさせず、届く言葉で説明する姿勢を期待する。
有料会員になると会員限定の有料記事もお読みいただけます。
【春トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら