(社説)適正な取り調べ 可視化の拡大で保障を

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 捜査機関による取り調べを録音・録画するしくみを今後どうすべきか。法務省が設けた協議会の議論が、今月から本格化する。

 冤罪(えんざい)をうまない捜査を実現するには、取り調べが事後に検証可能であることが欠かせない。録画の対象を広げ、制度を浸透させるのが急務だ。

 密室の調べの中で捜査官の強要や誘導が容疑者の虚偽の自白につながると、長く指摘されてきた。欧米で先行した取り調べの録音・録画について捜査当局は「供述が得られにくくなる」などと否定的だったが、大阪地検厚生労働省局長だった村木厚子さんを逮捕・起訴した冤罪事件をきっかけに刑事訴訟法が改正され、19年からごく一部の事件で義務づけられた。

 録画された映像は、供述の任意性(自らの意思でなされたか)や信用性を判断する証拠になる。施行後、任意性が争われる裁判は減った。取調官が自白を強いることを言ったか言わないかで、水掛け論が続く状況も避けられる。

 言動が事後にチェックされることを意識して不適正な取り調べが減る効果も期待でき、意義は大きい。

 ただ、対象は裁判員裁判対象事件と検察の独自捜査事件での身柄拘束中の取り調べに限られ、起訴される事件の約3%でしかない。検察では対象外の録画も進んでいるが、警察はそうはなっていない。

 協議会が捜査の適正化を真に図るのであれば、より一般的な事件にも録画の対象を拡大する方向で議論を進めるしかない。

 身柄拘束中に限らず、在宅容疑者、また参考人の取り調べも対象にすることも課題だ。取り調べをする側、される側の力関係の差は、こうした場合でも明らかで、圧迫や取引もありうる。任意の取り調べ中、取調官が対象者が黙秘するのをとがめたり、犯人だと決めつけたりした発言が記録されていて、国家賠償を命じられたこともあった。

 警察・検察当局は、自ら捜査を正していく姿勢で、議論に臨んでほしい。

 録画導入時の刑訴法改正に携わった法制審議会特別部会には、村木さんや痴漢冤罪を描いた映画を監督した周防正行さんら、捜査に巻き込まれうる市民の視点で発言する委員も参加し、全事件・全過程の録画を求めた。現在の協議会にこれらの委員が選ばれなかったのは残念だが、託された役割を忘れてはいけない。

 録画下でも取調官の暴言、誘導があることもわかってきた。弁護人立ち会いのあり方も含め、取り調べの密室状態を改める議論につなげたい。

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