(社説)中国の外交 言行の一致が問われる

社説

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 「世界の平和、安定、進歩の力となる」とうたいながら、侵略戦争に毅然(きぜん)と対応せず、自ら軍事拡張路線で周辺国を脅かす。著しく矛盾する姿勢というほかない。

 全国人民代表大会が開会中の中国で、記者会見した王毅(ワンイー)外相から耳を疑う発言が出た。「ロシアの天然ガスが中国の家々に届き、中国の自動車がロシアの街じゅうを走っている」と、緊密な中ロ関係を誇ってみせたのだ。

 ロシアによるウクライナ侵攻で、中国は表向きは停戦と和平交渉を双方に促すと表明している。だがこの2年、経済関係を通じてロシアを支え続けてきたのが実態だ。

 一方で中国は、台湾を不可分の領土の一部だとする立場への支持を、各国に求めてきた。他国領土を踏みにじるロシアを止めなければ、つじつまが合わない。

 さらに王外相は会見で、イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザ地区への攻撃に対し、「市民殺害の罪を逃れない」として、即時停戦を求めた。主張そのものは筋が通っているだけに、ウクライナ侵攻への態度との落差は隠しようがない。

 その中国自身も、周辺国を軍事的に圧迫する存在となって久しい。

 5日に公表された今年の国防予算は前年比7・2%増、1兆6655億元(約34・8兆円)に上る。伸び率は昨年と同じで、10年間続けると2倍になるペースだ。4隻目となる空母の建造を始めたとも報じられている。

 習近平(シーチンピン)政権は2035年までに軍の「現代化」を実現、今世紀半ばまでに「世界一流の軍を築く」としている。目標達成のためには、経済がいかなる状態でも国防費の増勢は緩めないという意思表示と受け止めざるを得ない。

 核戦力も着々と増強しており、もはや自国防衛に必要な水準を超えつつある。日本周辺や南シナ海での艦船・軍用機の活発な動きを含め、平和をうたう外交方針との乖離(かいり)をどう説明するつもりなのか。

 もっとも、中国の対外姿勢は、今後も長く続くと予想される米国との競争・対立に備えたものだろう。

 バイデン米大統領が米中首脳会談で「中国の発展を歓迎する」と述べながら、経済制裁の手を緩めないのは言行不一致だ――。王外相は会見でそう米国を批判した。

 であれば中国も言葉と行動を一致させる必要がある。爪を研ぎながら、いくら平和や安定を説いても、米国の覇権の陰りに乗じて自国の影響力を高める狙いが見透かされるだけ。そう自覚すべきだ。

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