(社説)留置場での死亡 開かれた検証が必要だ

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 なぜ命が失われてしまったのか。何ができたのか。1人の罰金刑で終わらせていい問題ではない。開かれた検証が不可欠だ。

 愛知県警岡崎署の留置場で22年、勾留中の男性(当時43)が死亡した事件で、検察は先週、留置主任官だった元警部を業務上過失致死罪で略式起訴し、名古屋簡裁が罰金80万円の略式命令を出した。

 略式の起訴や命令は、争いがない軽微な犯罪で、早く刑事手続きを終わらせる手法だ。検察は、共に書類送検されていた署員8人を不起訴にしている。このままだと、公判で真相を明らかにする機会が、失われてしまう可能性が高い。それでいいのか。

 男性は精神疾患があり、糖尿病も患っていた。家族も申告した。にもかかわらず、暴れるからと140時間も体を拘束し、急性腎不全で死亡させてしまった。55時間飲食していなかったという。

 手荒な扱いは元警部だけではなく、同僚や部下もかかわっている。上司も巡視を怠っていた。なぜ立ち止まれなかったか。捜査が優先されやすく人権への配慮の薄い留置場の実態が、明らかにされるべきだ。

 責められるべきは、警察だけではない。

 勾留請求したのは検察だ。取り調べできる状態でないとは分かっただろう。早く医療と連携できなかったか。最低限、医師が常勤する拘置所に移すようにすべきだった。

 精神科病院への措置入院が遅れたことにも疑問がある。判断する医師探しなどに手間取ったというが、緊急に入院させることも可能だった。

 男性は弁護士がついていなかった。精神障害の症状がある以上、冤罪(えんざい)を防ぐためにも必須だっただろう。刑事訴訟法上、本人が申し出なくても、裁判所が職権でつけることもできた。勾留を認めた判断といい、裁判所の対応も検証されるべきだ。

 愛知県公安委員会の下には、県留置施設視察委員会という組織もある。住民や弁護士、医師らで構成する。受刑者を死傷させた02年の名古屋刑務所事件後、都道府県警などに設けられた。施設運営の透明性を確保するためというが、調査の権限を強めて現場の改善につなげられないか。

 昨年、全国の留置場で少なくとも10人が死亡している。多くが病死とされるが、詳細は不明だ。捜査を尽くしつつ被疑者の人権も守る。岡崎署と同じような事件を二度と起こさない。そのためには、外の目を適切に入れる仕組みが必要だ。具体的な検証と議論が求められている。

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