(社説)海自でも参拝 靖国との関係 総点検を

社説

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 陸上自衛隊に続き海上自衛隊でも、幹部を含む自衛官らによる靖国神社への集団参拝が明らかになった。憲法が定める「政教分離」に抵触するのみならず、旧日本軍と「断絶」していないのではないかと疑われる行動だ。他の部隊でも例はないか、総点検して明らかにする必要がある。

 海上自衛隊の幹部候補生学校の卒業生が昨年5月、長期にわたる遠洋練習航海に先立ち、練習艦隊の当時の今野泰樹(やすしげ)司令官らとともに靖国神社に参拝していた。靖国神社の社報には、制服姿で本殿に上がって頭を下げる様子が写真つきで紹介され、練習航海前の参拝は毎年の恒例行事ととれる記述もあった。

 酒井良海上幕僚長は記者会見で、卒業生165人の多くが参加したが、東京地区での研修の合間にあった、個人の自由意思による私的参拝だと強調。「部隊としての参拝」や「隊員への参加の強制」を禁じた防衛事務次官通達には反しないとの考えを示した。玉串料も自由意思で集め、まとめて納めたという。

 しかし、制服姿での集団参拝は、外形的には組織的な振る舞いにしか見えない。幹部の育成過程の一環に組み込まれた行事のようにもみえ、若い自衛官が本当に個人の自由意思で、参加の有無を判断できるものだろうか。

 酒井海幕長は、自由参拝なので記録がなく、問題はないので「調査する方針もない」と述べた。過去にさかのぼって実態をつまびらかにすることなく、なぜそんな判断ができるのか。海自任せにせず、防衛省がきちんと事実関係を確認すべきだ。

 陸自で今年1月、陸上幕僚副長がトップを務める航空事故調査委員会のメンバーによる集団参拝が明らかになったばかりである。

 靖国神社は戦前、旧陸海軍が共同で管理し、国家主義軍国主義の精神的支柱となった。東京裁判戦争責任を問われたA級戦犯14人が合祀(ごうし)されてもいる。もちろん自衛隊員にも「信教の自由」は保障されているが、組織的な参拝となれば、話は別である。

 平和憲法の下で再出発したはずの自衛隊内で、過去への反省が風化していないか。この機会に組織全体をみわたしてチェックすべきだ。

 木原稔防衛相は先月、部隊参拝を禁じた事務次官通達の見直しに言及した。「通達は50年前のもので、それ以降、信教の自由や政教分離原則に関する最高裁の判例もいくつか出ている」ことを理由に挙げた。その方向性は判然としないが、縛りを緩めるつもりなら論外である。

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