ロシアが国際規範をふみにじり、隣国ウクライナへの全面的な侵略を始めて、きょうで２年になる。

　ロシアが一方的に始めた戦争を終わらせられるのは、ロシアだけだ。プーチン大統領に改めて求める。ただちに停戦し、ウクライナ領土から全軍を撤退させよ、と。

　私たちも、認識を新たにしたい。

　この戦争は今後も長く続く可能性があること。その結果、侵略者が得をする事態に至れば、模倣する勢力が後に続き、力と恐怖が支配する世界が現出しかねないこと。私たちの未来のためにも、息長くウクライナを支えていく責務があることを。

　■「支援疲れ」の正体

　ウクライナ軍が先週、東部ドネツク州の要衝アウジーイウカから撤退した。昨年１０月からロシア軍の猛攻が続いていた。がれきの山と化した住宅が連なる光景が壮絶な戦いを物語る。避難できずにとどまっていた市民も多くいたことを思えば、言葉を失う。

　もっともこれは、過去２年間に起きた数知れぬ悲劇のごく一部である。

　首都キーウでは、戦火を逃れて避難していた住民の帰還が進んだ。だが今も、空襲警報と飛来するミサイルや無人機の恐怖におびえる日々だ。

　ウクライナは昨年６月に反転攻勢に着手した。だが、目立った成果を上げられず、今や守勢に立たされている。

　戦況が悪化しつつある中で懸念されるのが、国際社会からの支援が細り始めていることだ。特に最大の支援国である米国の状況は深刻だ。

　約９兆円のウクライナ支援を含む予算案は、共和党のトランプ前大統領に近い下院議員らの反対で、成立の見通しが立たない。

　支援策が、狭量な党派対立の具に堕した主な理由として、この戦争への危機感が薄れた現実は否定しがたい。

　開戦後しばらくは、「ウクライナは長くもたない」との懸念、欧州を巻き込む大戦に発展する緊張、ロシアが核兵器を使うシナリオが、現実味を帯びた。

　だが膠着（こうちゃく）状態が長引くにつれて、こうした脅威が語られる場面はめっきり減った。民間人を巻き込む悲劇も、衝撃的なガザ危機の陰で注目されにくくなった。

　地球規模の危機とみられていたウクライナ戦争が、各地で続発する地域紛争の一つに矮小（わいしょう）化して見られているとすれば、憂慮すべき状況だ。

　そうした国際社会の関心の低下こそ、まさしく侵略者が待ち望んでいたものだ。

　ロシアは戦時体制の予算を組み、武器増産に邁進（まいしん）している。北朝鮮やイランからの調達も強化しているとみられる。戦力でウクライナを圧倒し、占領地を再び大きく広げる準備を着々と進める。

　■世界に拡散する脅威

　影響は、地域にとどまらない。ロシアが北朝鮮の核・ミサイル開発を認める姿勢に転じたことで、東アジアの秩序が脅かされている。南米ではベネズエラが昨年、隣国ガイアナの領土を軍事力で併合する構えを見せた。力による現状変更を狙う動きは、世界中に飛び火しつつある。

　核保有国の無法が黙認される前例を残せば、近隣国に野心を抱く国も、脅威にさらされている国も、核武装の誘惑にかられるだろう。

　原発の占拠、子供の連れ去り、占領地での拷問、民生インフラの破壊など、ロシアが重ねる戦争犯罪が見過ごされ、他でも繰り返される事態は、悪夢でしかない。

　ロシアに停戦を求める外交努力を強化するのは当然のことだ。

　一方で、プーチン氏が戦争に踏み切った理由を忘れてはいけない。プーチン氏は「自立したウクライナ国家」の存在を認めていない。ロシアとの一体化を一貫して要求している以上、仮に戦闘停止が実現したとしても、遠からず目標達成を狙うだろう。再侵攻を封じる手立てが不可欠だ。

　■国際結束を築き直せ

　食料・エネルギー供給が滞る不安を拡散し、西側諸国と新興・途上国の間に不信のくさびを打ち込むロシアの意図はより露骨になっている。

　欧州連合（ＥＵ）や北大西洋条約機構（ＮＡＴＯ）の信頼を傷つけ、欧州内の分断を広げる思惑もあるだろう。表だった攻撃は避けつつ、サイバー攻撃や偽情報による内政への介入などの工作を強めてくる恐れがある。

　１０年前、日本を含む多くの国がクリミア占領などのロシアの侵略行為を過小評価した。それが今回の事態を引き起こしたという教訓は重い。

　各国がこの戦争を「わがこと」と考え、戦闘長期化も視野に入れ、それぞれ持続可能なウクライナ支援策に知恵をしぼらねばならない。

　さらに国際的な結束を築き直す必要もある。欧米など主要国には、ガザも含め世界各地で理不尽な暴力に苦しむ人々に手を差しのべ、国際法違反を許さない責任がある。

　国や地域によって対応を変える二重基準がまかり通れば、ウクライナ支援の呼びかけは空虚に響くだけだ。