(社説)京大吉田寮 自治守り、対話再開を

社説

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 学生たちが守ろうとし、大学に求めてきたのは「自治と対話」だ。その価値を明確に認め、大学側の姿勢を厳しく戒めた司法の判断である。京都大学は控訴せず、学生との話し合いを再開するべきだ。

 京大「吉田寮」旧棟に住む在寮生らに対し、大学が建物の明け渡しを求めた裁判で、京都地裁は大学側の主張をほぼ退け、在寮生14人の居住を認める判決を言い渡した。

 大正時代に建てられた旧棟は築110年を超え、現に使われている学生寮では国内最古とされる。京大は2017年、老朽化で耐震性に問題があるとして、安全の確保を理由に退去を通告した。代わりの宿舎を用意するとしたが一部の寮生は従わず、京大は2年後に提訴に踏み切った。

 裁判で問われたのは、大学当局の姿勢だ。

 吉田寮の運営にあたっては1971年以降、寮自治会と確約書を随時交わし、「学生と話し合うことなく一方的な決定を行わない」としてきた。耐震補強についても、自治会の求める補修を「有効な手段」と認めながら、2015年に交渉を中断、建て替えの方針は維持してきた。約束に反して強行手段に出たことを、地裁は重くみた。

 さらに判決は「在寮生らは、自治会による自主運営に大きな意味を見いだして入寮した」と指摘した。多様で濃密な人間関係を築ける学生寮の貴重さを認め、代替宿舎ではかなわない学生自治を評価したと言える。

 吉田寮では、春には誰でも出入りできる音楽祭や屋台村も開かれてきた。そうした有形無形の価値が、地域社会の中で育まれてきたことも忘れてはなるまい。

 京大では、大学周辺の立て看板(タテカン)をめぐっても争いが続く。京都市が17年に景観などを理由に撤去を指導し、大学側が応じたことに対し、京大職員組合が「表現の自由の侵害だ」として市と大学当局を訴えた裁判だ。今回の判決を機に、京大の伝統である「自由の学風」に照らし、改めて省みてほしい。

 学生寮を閉じる動きは各地で相次ぐ。東大の駒場寮をはじめ、東北大金沢大でも寮生らの反対を押し切って廃寮になった。04年の国立大学の法人化以降、国の交付金が削られ、運営の効率化を迫られていることが背景にあるとの指摘もある。

 自主自律を重んじ、個性豊かな人材を送り出す。それこそが大学に期待される役割である。管理を強め、強権を振りかざすのでは、自治を守るべき学府の自己否定につながりかねないと知るべきだ。

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